
独自のノウハウにより、入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可物件など、他の不動産会社では取り扱いづらい「お困り物件」を解決に導いてきた、不動産・用地開発のスペシャリスト・株式会社エスエイアシストがお届けする「お困り物件コラム」。第141回目は「所在等不明共有者がいる不動産の売却」です。
相続で実家を兄弟と共有したものの、一人が長年行方不明で、「売却も活用もできずに困っている…」。このような状況で、固定資産税と管理負担だけが続き、将来への不安を抱えていないでしょうか。結論から言えば、所在等不明の共有者がいる不動産でも、法的な手続きや専門業者の活用によって売却することは可能です。ただし、法制度には厳格な条件や資金面の壁が存在します。
今回の記事では、所在等不明共有者がいる不動産がなぜ売却しづらいのか、そして民法改正で新たに整備された制度の注意点と、現実的な解決策を分かりやすく解説します。ぜひ最後までお付き合いください。
所在等不明共有者がいる不動産は売却できる?

まず押さえておきたいのが、「所在等不明共有者」という言葉の意味です。「所在等不明共有者」とは、「相続などで資産が複数人の共有財産になったとき、その資産の管理や売却などといった手続きが滞ってしまう、連絡が取れず所在の分からない共有者」のことです。
もっと言うと単に連絡が取れない人ではなく、
・住民票・戸籍附票の調査や転出先の確認
・郵便物送付と返戻
など、実務上求められる調査を尽くしても所在が確認できない共有者を指します。この要件を満たさない場合、裁判所での手続きは却下されたり、調査報告書や資料の不備による追加調査を求められたりすることがあります。これは、形式的な調査では通らない可能性があることが、大きなハードルと言えます。
「所在等不明共有者がいる不動産は売却できるのか?」
結論から言えば、法的な手続きや専門家への相談、業者の活用によって売却することは可能です。ただし、共有者全員の同意が必要になるため、一人でも行方が分からないと、不動産全体の売却や建替えは原則として進められません。
しかも、この問題は放置しても自然に解消することは少ないため、早めに現実的な対応を考えることが重要です。
所在等不明共有者持分取得制度を利用する5つのハードル!
そこで、近年の民法改正により、一定の要件を満たせば裁判所の関与のもとで不明共有者の持分を取得し、不動産の権利を集約できる制度が整備されました。これが、いわゆる「所在等不明共有者持分取得制度」です。
ただし、この制度は「最短で簡単に片付く方法」ではありません。以下に制度利用のハードルを解説します。
①所在等不明を立証するための調査負担が重い
先述のとおり、裁判所に「所在等不明」と認めてもらうには、住民票や戸籍の附票を徹底追跡した記録、登記簿上の住所に送った郵便物が「宛先人不明」で戻った事実など、客観的な証拠が必要です。場合によっては、警察への捜索願の提出記録や、他の親族とのやり取りをまとめた「調査報告書」が求められ、この準備だけで大変な労力と時間がかかります。
②裁判所による審査に時間がかかる
その制度の申し立て後、裁判所は官報などを通じて、不明共有者へ異議申し立ての機会を与える「公告」を行います。この公告期間は「3か月を下ってはならない」と定められ、短縮は不可能です。書類の準備や審理期間を含めると、解決までに半年から1年程度かかるのが一般的であり、急ぎの売却には向かないでしょう。
③高額な供託金を納めなくてはならない
そして、所在等不明共有者の持分を買い取るためには、裁判所が定めた「時価相当額」の現金(供託金)を、事前に法務局に預け入れる必要があります。この金額は不動産鑑定士の評価などに基づきますが、数百万単位のまとまった資金を原則として「先出し」しなければならない上、多くは共有減価(共有であることの不都合を評価額に反映する)が考慮されず、結果的に想定より割高な金額提示になることがあります。
④裁判後の登記申請は申立人自身で行う必要がある
たとえ裁判所が持分取得を認める決定を出しても、名義が自動的に書き換わるわけではありません。決定確定後、申立人自らが法務局へ出向き、登録免許税を支払って登記申請を行う必要があります。司法書士へ依頼する場合は別途数万円から十数万円の報酬が発生し、事務的な負担が最後まで続きます。
⑤「10年ルール」が成立しないと制度を使えない
それも、不明共有者の持分が相続財産(遺産分割未了)である場合、原則として相続開始から10年が経過していなければ、この制度は利用できません。これは早期の段階では遺産分割協議という本来の手続き(原則として法定相続人全員の協議)を優先させるためですが、相続した物件をすぐに整理したい方にとっては非常に高い壁となります。
ただ、この「10年ルール」はすべてのケースに当てはまるわけではありません。たとえば、単独相続である場合や、すでに遺産分割協議が成立している場合は、10年を待たずに申立てが可能なケースがあります。ただし、その事実は申立人側で疎明(一応確からしいと推測できる程度の弁明)する必要があり、戸籍や協議書などの資料が求められます。
資料が不十分な場合、裁判所から遺産共有と判断され、結果として10年待ちを前提とせざるを得なくなることもあります。「10年経っていないから無理」と早合点するのも、「例外があるから大丈夫」と楽観するのも危険です。
所在等不明共有者がいる不動産の放置リスクとは?
とはいえ、解決を先送りにして所在等不明共有者を放置し続けることには、以下のような実務的なリスクが伴います。
①「特定空き家」指定による固定資産税の激増
まず、管理が行き届かない(管理不全)空き家は行政から「特定空き家」に指定される恐れがあります。さらに勧告を受けると、それまで適用されていた住宅用地優遇税制の特例から外され、固定資産税が最大6倍、都市計画税が最大3倍に激増する深刻な経済的ペナルティが課せられます。
②建物の老朽化による損害賠償責任
また、共有者が行方不明で活用できていなくても、老朽化によって壁が剥がれて通行人に怪我をさせたり、虫害や獣害が発生したりといった周辺近隣に被害が出た場合、共有者全員が損害賠償責任(工作物責任)を負うことになります。にもかかわらず、「大規模な改変(修繕や解体)には共有者全員の同意が必要」というルールが壁になり、対応できないままリスクだけが大きくなります。
③さらなる相続発生による権利関係の複雑化
そして、時間の経過とともに他の共有者にも相続が発生し、関係人数が雪だるま式に増えていくことになります。さらに、「不明共有者が見つかったけれど、子や孫がいた…」といった可能性もあり、より権利関係が複雑化するかもしれません。面識のない遠縁の多数と交渉しなければならず、もはや個人の力では売却や名義整理が不可能になります。
このように、所在等不明共有者がいる状況は、先送りすればするほど資産価値を損ない、「負動産」化していきます。
所在等不明共有者がいる不動産売却に使える5つの方法!

状況に合わせた最適な出口は、以下の5つの方法があります。
①所在等不明共有者の「持分取得制度」を利用する
これまでお話した通り、(相続協議未了の場合に)相続開始から10年経過した状況で、裁判所の許可を得て不明者の持分をご自身で取得し、単独名義にする方法です。まとまった先出しの現金(供託金)を用意でき、時間をかけてでも不動産全体を自分のものにしたい場合に適しています。また、通常売却によって相場通りの売却価格を目指す場合に有効な制度となります。
②不在者財産管理人を選任する(従来の手法)
つぎに、新制度ではなく従来の手法として、裁判所に「不明者の代わりに財産を管理する人(弁護士等)」を選んでもらう方法です。売却の協議は可能になりますが、管理人の報酬(予納金)として数十万〜100万円単位の費用負担が発生するのが一般的です。
③失踪宣告制度を利用する
そして、所在等不明共有者が生死不明の状態で原則7年以上続いている場合に、法律上死亡したものとみなす制度です。不明共有者が被相続人として相続が開始されることになります。ただ、認められるまでの調査が厳格で(難しく)、完了までに数年単位の年月を要することが多いとされています。
④共有物分割請求(訴訟)をする
さらに、裁判所に対し「共有状態を解消してほしい」と訴える方法があります。不明共有者が相手でも手続きは可能ですが、一度裁判所が下した決定は「2週間の不変期間(即時抗告期間)」を過ぎると覆すことができません。そのため、もし最終的に競売を命じられた場合、不動産が相場より低い価格で売られてしまうリスクを伴います。
⑤所在等不明共有者持分譲渡権限付与制度を活用する
さいごに、(相続協議未了の場合に)相続開始から10年経過を条件に裁判所から許可を得て、(供託金なしで)不動産全体を一括で第三者に売却する方法があります。特定の第三者を見つけた上で、条件付きで裁判所に「譲渡権限付与」の申し立てをします。ただし、裁判の確定後一定期間で売買を完了させなければ権限が失効するという、タイトなスケジュール管理が求められます。
それぞれの方法に特徴があるため、ご自身の状況に照らして慎重に判断することが重要です。
所在等不明共有者の問題から早期離脱する現実解!
これらの対応策が、時間・手間・費用などの面から難しいと感じたときの最終的な手段として、「不動産買取」があります。共有状態のままでもご自身の持分のみを売却することで、問題から早期に離脱することが可能です。
デメリットとしては、
・他の共有者との合意が不十分な場合、関係性が悪くなる
・自身の共有持分を売るだけでは、不動産全体の処分にはならない
・売却価格は通常の共有持分売却よりも低くなる傾向がある
といった点が挙げられます。そのため、「実家全体を高く売りたい」という目的には適さないケースもあります。
しかし一方で、「他の判明している共有者とも関係が悪化しており、これ以上関わりたくない」「時間や精神的負担をこれ以上かけられない」と感じている方にとっては、問題から一気に距離を置ける現実的な選択肢と言えるでしょう。
所在等不明共有者がいる不動産の売却において、買取のメリットには次のような点があります。
・共有状態のまま売却できるため、裁判所手続が不要
・制度利用の「10年ルール」のために待機する必要がない
・供託金や鑑定費用などの先出し資金、自身の登記手続の手間が不要
・裁判所や不明共有者(及び他の共有者)との調整を業者側へ委ねられる
・契約不適合責任(契約との相違に対する売主責任)を免責できるケースが多い
・短期間で現金化でき、精神的負担を大きく減らせる
このように、不動産買取は「不動産そのものを最大限に活かす方法」ではなく、「問題を早期に終わらせたい…」という思いに「寄り添うための手段」の現実解と言えます。
まとめ
今回の記事では、所在等不明共有者がいる不動産の売却について、制度の注意点や現実的な解決策を分かりやすく解説してきました。
「所在等不明共有者」とは、「相続などで資産が複数人の共有財産になったとき、その資産の管理や売却などといった手続きが滞ってしまう、連絡が取れず所在の分からない共有者」のことです。もっと言うと、単に連絡が取れない人ではなく、調査を尽くしても所在が確認できない共有者を指します。
所在等不明共有者がいると、(共有者全員の同意が得られず)不動産全体の売却は原則として進められず、放置しても自然解消できないため、現実的な対応が重要です。
一定の要件を満たせば裁判所の関与のもとで不明共有者の持分を取得し、不動産の権利を集約できる「所在等不明共有者持分取得制度」があります。
ただし、この制度の利用には以下のハードルがあります。
①所在等不明を立証するための調査負担が重い
②裁判所による審査に時間がかかる
③高額な供託金を納めなくてはならない
④裁判後の登記申請は申立人自身で行う必要がある
⑤「10年ルール」が成立しないと制度を使えない
ただ、この「10年ルール」は、単独相続である場合や遺産分割協議が成立している場合には、その限りではありません。ただし、その事実は申立人側で疎明(一応確からしいと推測できる程度の弁明)する必要があり、戸籍や協議書などの資料が求められます。
資料が不十分な場合、結果として10年待ちを前提とせざるを得なくなります。とはいえ、解決を先送りし続けることには、以下のような実務的なリスクが伴います。
①「特定空き家」指定による固定資産税の激増
②建物の老朽化による損害賠償責任
③さらなる相続発生による権利関係の複雑化
このように、所在等不明共有者がいる状況は、先送りすればするほど資産価値を損ない、「負動産」化していきます。
そこで、状況に合わせた最適な出口は、以下の5つの方法があります。
①所在等不明共有者の「持分取得制度」を利用する
②不在者財産管理人を選任する(従来の手法)
③失踪宣告制度を利用する
④共有物分割請求(訴訟)をする
⑤所在等不明共有者持分譲渡権限付与制度を活用する
これらの対応策が難しいときの最終手段として「不動産買取」があり、共有状態のまま自身の持分のみを売却して、問題から早期に離脱することが可能です。
デメリットとして「他の共有者との関係性が悪くなる・不動産全体の処分にはならない・売却価格は通常売却よりも低くなる」ため、「実家全体を高く売りたい」という目的には適しません。
しかし一方で、負担を感じている方にとっては、問題から距離を置ける現実的な選択肢であり、買取のメリットには次のような点があります。
・共有状態のまま売却できる
・「10年ルール」を待つ必要がない
・先出し資金や登記手続の手間が不要
・全ての調整を業者側へ委ねられる
・契約不適合責任を免責できるケースが多い
・即現金化でき精神的負担を減らせる
この所在等不明共有者問題は、法律論だけで解決策を考えると行き詰まりがちですが、大切なのは不動産をどうしたいのかではなく、自分自身がどこに着地したいのかを明確にすることです。目的を整理することで、取るべき行動は自然と見えてきます。
私たちエスエイアシストは、入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可物件など、扱いが難しい「お困り物件」のご相談を数多くサポートしてきました。
「どこに相談すればいいか分からない」「家族に迷惑をかけたくない」と感じている方こそ、ひとりで抱え込まず、まずは現状をお聞かせください。お客様の状況やご希望を踏まえ、無理のない出口プランを一緒に考えます。お困りの物件でお悩みの方は、ぜひエスエイアシストまでご相談ください。
【重要参考出典】
• 大阪地方裁判所 第4民事部「所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てについてのQ&A」:
• 東京地方裁判所「所在等不明共有者持分取得申立てについて」(2024年10月郵便料金改定対応版):
• 朝日新聞社運営「相続会議」:所有者不明土地問題に道筋 相続登記義務化の法改正をチェック



