
独自のノウハウにより入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可など、他の不動産会社が取り扱いづらい“お困り物件”を解決に導いてきた不動産・用地開発のスペシャリスト、株式会社エスエイアシストがお届けする“お困り物件”コラム、第128回目は「建物の越境と不動産売却」です。
ご自身の不動産を売却しようとしたとき、建物の一部や塀が隣地にはみ出している「越境」が発覚するケースは少なくありません。ここで「お隣とは関係性が良いから大丈夫だろう…」と考えてしまいがちですが、それは間違いです。これまで何の問題もなかったのに、なぜ売却のタイミングで大きな影響が出てしまうのでしょうか?
今回の記事では、越境が起こる原因から、売却時に潜む影響や解決に向けた具体的なステップ、そして越境物の撤去が困難な時の3つの売却方法まで、徹底解説していきます。「うちもそうかも…」と心当たりのある方は、ぜひ最後まで読んでいってくださいね!
越境問題は不動産売却を決めた途端に表面化する!

はじめに、不動産における「越境(えっきょう)」とは、「ご自身の土地にある建物の一部や塀・擁壁(ようへき)、樹木の枝や根、地中の配管などが、境界線を越えて隣地へ入り込んでいる状態」を指します。逆に、「隣地の所有物などが、こちら側の土地に侵入している状態」を「被越境(ひえっきょう)」といいます。
それに関係する土地の境界線は、目に見えにくいことも多いものです(たとえ塀があったとしても、それが正しいとは限らない)。特に、昔の測量が不正確だったり、境界を示す杭がなくなっていたりすると、越境が起きていても気付かれないままのケースは少なくありません。
では、不動産売却を考えたとき、この越境はなぜ問題なんでしょう?「いまいちピンとこない…」と感じる人も多いかもしれません。なぜなら、これまで住んできた中で何の問題もなかったからです。
そもそも、越境が起こる理由をまとめると以下。
・測量技術の問題:過去の測量技術が未熟、もしくは測量自体がずさんだった
・境界の誤認:既存の塀などを境界線だと勘違いしたまま建物を建ててしまった
・意図的でない越境:樹木の枝や根が年月をかけて成長して、はみ出してしまった
・認識の変化:親の代では「お互い様」で済んでいたが、代替わりして権利意識が変化した
これらによって、もしご自身の不動産に越境の事実が隠れていた場合、「不動産売却をしよう!」と決めた途端に問題が一気に表面化します。それは、ご自身の売却のみならず、隣地の建替えや土地利用に影響を与えるほか、将来的なトラブルの火種になり得ます。
「長年この状態だったし、隣人と揉めたこともないから大丈夫だろう…」と、親の代から関係性も悪くないとあれば、安易にそう考えそうなものです。
しかし、その考えは現実としてはズレています。建物の越境は単なる「はみ出し」ではなく、不動産における「隠れた瑕疵(かし:欠陥)」であり、所有権に関わる法的な問題を含んでいるのです。法律上は「他人の土地を無断で使用している」と解釈される可能性がある大問題です。
越境がある土地にある問題とは?
この越境がある土地には、具体的に以下のような問題があります。
①所有権に関わる法的な問題がある
まず、日本の民法では、土地の所有権はその土地の上下に及ぶと定められています。つまり、たとえば空中の建物の庇(ひさし)や地中の建物の基礎が、たとえ数センチはみ出しているだけでも、隣地の所有権を侵害している状態になります。これにより、隣地所有者さんから越境物の撤去や土地の明け渡し、場合によっては損害賠償を請求されるリスクもあります。
②境界が未確定な場合が多い
また、越境が起きている土地の多くは、そもそも隣地との境界が正式に確定していないケースが多いです。特に関係する法律が未整備の古くから存在する場合はなおさら…。不動産売買においては、対象となる土地の面積を確定させることが大前提です。境界が未確定のままでは、売買対象の範囲が曖昧なため、買主さんは安心して購入することができません。
③誤解しがちな時効という概念
ただ、一方で「取得時効(自己所有の土地と信じて占有してから10年経つと、実際に自己の所有となる)」という考え方もあります。そのため、「長年この状態なら時効で自分のものになるのでは?」と考える方もいますが、この取得時効が成立するには「所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有」するなど非常に厳しい要件があり、立証が困難。安易に時効の成立を期待するのは極めて危険です。
④資産価値が低下する
そんな越境という瑕疵は、不動産の資産価値を直接的に低下させます。買主さんから見れば、将来的な隣地とのトラブルリスクや融資の問題、建替え時に建物の配置が制限されるといったデメリットがあるためです。その結果、周辺の相場価格よりも安い価格でしか売れなかったり、大幅な値引き交渉の材料とされたりすることが一般的です。問題の大きさによっては、買い手が見つからないという事態も十分にあり得ます。
⑤隣人トラブルを抱えやすい
たとえ隣地所有者さんとの関係性が良好であったとしても、売却にともなう交渉を通じて関係性が悪化してしまうケースは少なくありません。越境の解消をお願いするということは、隣地所有者さんにとっては金銭的・時間的な負担を強いる話になりかねないからです。また、代替わりによって隣地の所有者さんが変われば、「お互い様」というこれまでの暗黙の了解が通用しなくなり、急に権利を主張されることもあります。
これらのような問題は、そのまま不動産の売却活動における具体的な障害となって現れることになります。
建物が越境していると土地の売却に影響する?
そんな不動産を売却しようと考えたとき、越境している土地の具体的な影響として、以下の3点が挙げられます。
①住宅ローン審査への影響
ひとつに、買主さんの多くは住宅ローンを利用して不動産を購入します。しかし、金融機関は融資の際に不動産の担保価値を厳しく審査するため、越境のような権利関係に問題がある物件は「担保不適格」と判断され、住宅ローンの審査が通らない可能性が非常に高くなります。
その結果、せっかく見つかった買主さんを逃してしまうことになります。
②買主との契約トラブル
また、もし越境の事実を隠して売却した場合、後に買主さんから「契約不適合責任(契約内容に合わない不動産を売却したときに負う売主責任)」を問われる可能性があります。越境があると、新築や増改築において「建築確認申請(工事前に法令に準じているか審査を受けるための申請)」が通らず、思うような工事ができなくなることがあるためです。
これによって、買主さんから代金の減額請求、追完請求、損害賠償、最悪の場合は契約解除を求められるなど、深刻なトラブルに発展します。
③売却活動の長期化
とはいえ、越境の事実を告知した上で売却活動を行うと、多くの買主さんは将来的なトラブルを懸念して購入を敬遠します。買い手が見つかりにくくなるため、売却期間が長引いたり、大幅な価格の値下げ交渉を受け入れたりせざるを得なくなり、想定より低い価格で手放すことになりがちです。
もちろん、売却できればまだいい方で、売却ができないこともあり得ます。活用できない不動産は、負の資産でしかありません。
とりわけ、建物が越境してしまっている場合は、その是正(撤去)が困難なので問題はより深刻化します。塀や庭木と違い、建物や擁壁といった構造物の越境は物理的な撤去が極めて難しく、多額の費用がかかるため、解決へのハードルが格段に上がります。そのため、買主さんが見つからず、売却自体を諦めざるを得ないケースも珍しくありません。
これらのリスクを回避するためには、売却活動を始める前に越境問題に対する適切な対処をしておくことが不可欠です。
越境問題において押さえるべき制度や法律!

では、具体的な対策を解説する前に、建物が越境している不動産を売却する上で、大切な制度や法律の知識を整理しておきましょう。
①筆界特定制度の活用
兎にも角にも安心して不動産売却するには、境界を確定させることが重要となります。しかし、隣地所有者さんとの話し合いで境界が確定できない場合があります。そんなときには、「筆界特定制度」を利用できます。
これは、法務局に申請し、土地家屋調査士などの専門家の意見を基に、筆界特定登記官が公的な見解として、土地の境界(筆界)を特定してくれる制度です。裁判に比べて費用や時間を抑えつつ、境界を確定させる有力な手段となります。
②ADR(裁判外紛争解決手続き)の活用
また、裁判や筆界特定制度だけでなく、より柔軟な解決を目指すための第三者機関の活用も選択肢となります。法的な権利主張の応酬だけでなく、実情に合った柔軟な解決策(例えば、金銭での解決など)を探ることができます。
一般的に、訴訟に比べて費用を抑えられ、解決までの時間も短い傾向にあります。もしも「当事者間の話し合いが行き詰まったものの、訴訟のような対立は避けたい」という場合に、非常に有効な手段と言えます。
③2023年民法改正による変化
そして、2023年4月の民法改正は、越境をさせてしまっている土地所有者さんにとって、厳しいものと言えるでしょう。それによって、被越境側である隣地所有者さんの権利が明確にされたため、越境問題を抱えたまま売却することが一層難しくなりました。
例えば、越境した木の枝は被越境の立場でも、一部条件を満たせば切除できるようになり、より自主的に是正する方が賢明です。また、水道管などの越境についても補償等のルールが整備されたため、これらを基に隣地と正式な「覚書」を交わしておく重要性が高まっています。
ただ見方を変えれば、曖昧な状態を正式な書面による合意へと導きやすくなったということであり、買主さんが安心できる材料を準備しやすくなったと捉えることもできます。
これらの法律や制度を理解して、隣地所有者さんへの配慮と手続きのスピードを両立させていくことが大切です。
越境問題のある不動産を売却するためのステップ!
ということで、越境問題のある不動産を売却するための具体的な対策(ステップ)について解説します。
①登記などの現状を把握する
まずは法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」や「公図」「地積測量図」を取得し、ご自身の不動産の権利関係や公的な形状、面積を確認します。このとき、境界が確定した測量図である「確定測量図」があるかどうかが重要なポイントになります。
②調査と境界確定
つぎに、境界が曖昧であると判断したら、土地家屋調査士に依頼して現地の状況を測量する「現況測量」を行います。隣地所有者さんほか関係者全員の立ち会いのもと、全ての境界を確定させる「境界確定測量」を実施し、「境界確認書」を取り交わします。その結果、越境の事実が確定することにもなるでしょう。
③越境物に応じた是正
その越境物が、建物の庇やエアコンの室外機、ブロック塀など、物理的に撤去や移設が可能なものは、費用や工事の現実性を踏まえて是正を検討します。物理的に解消できれば、物件の価値を損なうことなく売却できます。なお、「僅かな越境に対して過剰な対応を必要としない」とした判例もあるため、是正は越境の程度や状況に応じて、社会通念上相当な範囲で行われるケースもあります。
④分筆という選択肢もある
しかし、建物の構造上や費用面からすぐに是正するのが困難な場合もあります。そんなときには、越境している土地の部分だけを隣地所有者さんに分筆(土地の分割)してもらい買い取ることも選択肢。これにより、越境状態そのものを根本的に解消できますが、分筆には測量や登記の費用と隣地所有者さんの同意が不可欠です。
⑤隣地所有者との合意形成
また、隣地所有者さんと誠実に話し合い、将来的な解決策について合意形成を図ります。その際、「将来、建物を建て替える際には越境を解消する」といった内容を盛り込んだ「越境に関する覚書」を作成し、双方が署名・捺印します。この合意内容は、「次の所有者にも引き継がれる」ことを明記することで、買主さんにとっての安心材料になります。
⑥告知範囲の整理
それらの経緯や結果、つまり「どこまで解決済みで、何が課題として残っているのか」を全て不動産会社に報告します。その上で、買主さんに対して何をどこまで説明する必要があるか(告知義務の範囲)を整理し、重要事項説明書に正確に記載してもらうことが、後のトラブルを防ぐ上で不可欠です。
これらのステップは時間や費用がかかることもありますが、問題を先送りにせず、一つひとつ着実にクリアしていくことが、結果的にスムーズな売却に繋がります。
越境物の撤去困難なら合意・分筆・買取の3択!
さいごに、越境物が建物や擁壁といった物理的に撤去が困難な土地の売却について、より詳しく解説していきます。合意・分筆・買取の3択のなかから、それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の状況に最も適した方法を見つけましょう。
①覚書書等で合意し不動産仲介で売却する
ひとつに、越境の事実と将来の対応(建替え時の解消を約束するなど)について隣地所有者さんと合意し、その内容を「覚書」として書面で残した上で、一般の市場で買主さんを探す方法です。不動産仲介会社を通じて売却活動を行います。
メリット:
・越境状態を物理的に解消する必要がないため、是正費用がかからない
・将来のリスクが書面で明確になり、比較的スムーズに売却活動できる
・市場相場に近い売却価格での売却も期待できる
デメリット:
・隣地所有者との覚書交渉が難航、あるいは合意に至らないケースもある
・あくまでも将来の約束事であるため、買主に敬遠される可能性がある
・金融機関の住宅ローン審査が厳しくなることがある
②分筆によって越境部分を買い取って不動産仲介で売却する
つぎに、隣地所有者から越境している部分を、測量して分筆の上で買い取る方法です。これにより、法的にクリーンな状態で不動産仲介による売却が可能になります。
メリット:
・越境という瑕疵が完全になくなるため、一般の不動産として扱える
・買主との将来的なトラブルの可能性が減る
・金融機関の住宅ローン審査がスムーズになる
デメリット:
・分筆登記や所有権移転登記には、専門家への依頼費用がかかる
・小さい土地とはいえ、取得には手間も費用もかかる
・隣地所有者に越境部分の売買への同意をもらうなど、不確定要素がある
③現状のまま不動産買取を利用して売却する
そして、隣地所有者さんとの交渉が難航したり、時間的な猶予がなかったりする場合に有効なのが、現況のまま専門の不動産買取業者に物件を直接売却する方法があります。
メリット:
・越境問題を含め、物件の現状をすべて受け入れた上で買い取ってくれる
・仲介での売却活動に併走させることで、売却への確実性が増す
・手間や時間をかけずとも即金性がある
デメリット:
・不動産仲介と比べて売却価格は低くなる傾向にある
・悪徳業者も多く、業者選びに注意が必要である
・修繕等のための残債が残っている場合の債務超過に注意が必要である
特に建物を越境させてしまっている場合、隣地所有者さんとの関係性において難しい舵取りが必要になります。もし、関係性が悪くなってしまうようであれば、不動産買取はメリットが大きくなるでしょう。
そのポイントとなるメリットは以下。
・(始めから買取を選べば)隣地所有者に知られずに売却することも可能である
・隣地所有者と交渉したり、測量や是正を行ったりする必要がない
・契約次第で契約不適合責任が免責される可能性がある
・スケジュールが読みやすく、相続や転居など他の手続きと並行しやすい
越境の度合いや事情により最適解は変わります。迷う場合は、仲介と買取を併走させつつ、家族や専門家と方針を決めていくと良いです。
まとめ
今回の記事では、越境が起こる原因から、越境物の撤去が困難な時の売却方法まで、解説していきました。
はじめに、不動産における「越境(えっきょう)」とは、「ご自身の土地にあるものが境界線を越えて隣地へ入り込んでいる状態」を指し、逆に「隣地の所有物などが、こちら側に入ってきてしまっている状態」を「被越境(ひえっきょう)」といいます。
それに関係する土地の境界線は目に見えにくく、「測量技術の問題・境界の誤認・意図的でない越境・認識の変化」で越境は発生し、気付かれないままのケースも多いです。
ただ、越境は互いの土地活用に影響するため、売却を決めた途端に問題が表面化し、法律上は「他人の土地を無断で使用している」と解釈され、将来的なトラブルの火種になり得ます。
この越境のある土地には、具体的に以下のような問題があります。
①所有権に関わる法的な問題がある
②境界が未確定な場合が多い
③誤解しがちな時効という概念
④資産価値が低下する
⑤隣人トラブルを抱えやすい
不動産売却の際、越境している土地の具体的な影響は以下の3点。
①住宅ローン審査への影響
②買主との契約トラブル
③売却活動の長期化
とりわけ建物が越境してしまっている場合は、その是正(撤去)が困難なので問題はより深刻化します。そのため、買主さんが見つからず、売却自体を諦めざるを得ないケースも珍しくありません。
売却を考えるなら、法律や制度を理解して隣地への配慮と手続きのスピードを両立させていくことが大切です。
①筆界特定制度の活用
②ADR(裁判外紛争解決手続き)の活用
③2023年民法改正による変化
では、越境問題のある土地を売却するための具体的な対策は以下。
①登記などの現状を把握する
②調査と境界確定
③越境物に応じた是正
④分筆という選択肢もある
⑤隣地所有者との合意形成
⑥告知範囲の整理
これらは時間や費用がかかることもありますが、結果的にスムーズな売却に繋がります。
さいごに、越境物が物理的に撤去が困難な土地の売却について、合意・分筆・買取の3択からメリット・デメリットを紹介します。
①覚書書等で合意し不動産仲介で売却する
メリット:是正費用がかからない・リスクが書面で明確になる・相場に近い売却価格になる
デメリット:交渉が難航するケースもある・将来の約束事では買主に敬遠される・住宅ローン審査が厳しくなる
②分筆によって越境部分を買い取って不動産仲介で売却する
メリット:一般の不動産として扱える・将来的なトラブル回避・住宅ローン審査がスムーズ
デメリット:登記には依頼費用がかかる・取得には手間も費用もかかる・不確定要素が多い
③現状のまま不動産買取を利用して売却する
メリット:現況のまま買取・売却の確実性が増す・即金性がある
デメリット:売却価格は低くなる・悪徳業者に注意・債務超過に注意が必要
特に隣地との関係性が難しい場合、不動産買取はメリットが大きくなる理由は以下。
・隣地所有者に知られずに売却できる
・交渉や是正を行ったりする必要がない
・契約不適合責任が免責の可能性がある
・スケジュールが読みやすい
これらは、越境の度合いや事情により最適解は変わります。
私たちエスエイアシストも不動産買取業者のひとつです。入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可など、困ってしまう“訳あり物件”のご相談を数々解決してきた実績があります。越境問題で迷ったりお困りだったりする方は、一度エスエイアシストにご相談ください!お待ちしています。



