
独自のノウハウにより入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可など、他の不動産会社が取り扱いづらい“お困り物件”を解決に導いてきた不動産・用地開発のスペシャリスト、株式会社エスエイアシストがお届けする“お困り物件“コラム、第127回目は「私道負担のある土地の売却」です。
所有している土地が「私道」に面している場合、手放す際に「売却時に不利になるのでは?」「手続きが複雑で大変そう…」といった不安になるのではないでしょうか?たしかに、私道負担のある土地には権利関係や法律上の制約が絡み合うため、売却活動が難航するケースは少なくありません。しかし、事前にその「落とし穴」を知り、正しい知識や制度理解、下準備をもって売却活動に臨むことができれば、スムーズかつ早期に売却することも十分可能です!
今回の記事では、私道負担のある土地の売却がなぜ難しいのか、その原因となる「3つの落とし穴」、さらには解決策となり得る制度や具体的な下準備の方法と状況に合わせた最適な売却戦略の立て方まで、分かりやすく解説します。ぜひ、最後までお付き合いくださいね!
私道負担のある土地と接道義務!

はじめに、「私道負担」とは「所有する敷地内の一部または接道部分が私道(個人や民間法人が所有し管理する道路)として機能し、その面積や管理において自由には使えず制約や負担が及ぶ状態」です。有効宅地(建築に使える面積)は、所有する敷地面積から私道負担面積を差し引いて算出するため、建築計画や価格に影響します。
ここでポイントとなるのが「接道義務」で、「原則として敷地は幅員4m以上の建築基準法上の道路に2m以上接しなければならない」とされ、それが果たされなければ、再建築不可物件(新たな建物が建てられない)となります。もし、該当道路が4m未満なら、セットバック(道路後退)で中心線から2mを確保する必要があります。
このセットバックなどによって、道路の一部として敷地を提供することで私道負担は発生しているのです。その私道負担のある土地の典型が「位置指定道路」(法42条1項5号)や既存の二項道路(同条2項)に接する物件です。位置指定道路は自治体から指定番号が振られ、幅員・延長・起終点が図面で管理されます。
・位置指定道路:特定行政庁の位置の指定を受け、原則幅員4m以上などの基準を満たす私道
・二項道路:法施行前から存在した幅員4m未満の道であり、新築時に中心線から2m後退して4m幅を確保する義務がある
注意すべきは、その私道が「建築基準法上の道路」でない場合があることです。この場合、たとえ日常的に車両や人が通行していても、建築確認や融資審査の段階で「法的な道路であること」が否定されることがあります。
そのため、私道負担のある土地を売却を考えるのであれば、最初に自治体の道路台帳、指定道路図、法務局の公図・土地登記簿等で確認し、「公私」「42条のどの類型か」を判別・確定させることが、始めの一歩となります。
私道負担のある土地売却の落とし穴とは?
では、私道負担のある土地を売却に向けて動こうとする中で、その「落とし穴」ともいうべき停滞要因があります。
①条件面の不明確さ
ひとつに、以下のような条件面が不明確だと、不動産取引が著しく困難になります。
・位置指定道路か二項道路といった道路の種類、幅員(道の幅)や接道長(敷地が道路に接している長さ)、隅切り(私道出口の角を落として見通しをよくする部分)の数値、指定番号や図面が手元にない
・家を建てられる実際の面積(有効宅地)があいまいだと、建てられる大きさや価格の前提がブレる
・私道持分(私道の権利割合)や通行地役権(通行の権利を土地に設定すること)の有無がはっきりしないと買主や金融機関が不安を感じる
②承諾書面の未整備
つぎに、承諾書面が揃っていないと工事の見通しが立たないことになります。
・通行承諾書(私道を通ってよいという同意)や掘削承諾書(上下水道・ガスなどの工事で私道を掘ってよいという同意)がないと工事ができるかどうかの判断ができない
・清掃や補修、費用の分担、大型車の出入り、所有者が替わったときの引き継ぎなどを決める管理協定がないと、将来の揉め事につながる
・共有者が高齢や遠方に住む、連絡先不明だと、同意を集めるだけで時間がかかる
③説明の難しさ
さらに、買主さんにうまく説明できないと売却価格に納得してもらえません。
・価格の理由(建てられる面積がどれだけ減るか、工事上の制約、想定される管理費)を数字で示せないと、買主は値付けに納得しづらい
・「何を売主が準備済みで、何を買主が手配するのか」の線引きがあいまいだと、購入判断が先送りされる
・金融機関の審査に必要な資料(道路の種類が分かる書類、承諾書、配置の簡単な図など)が不足すると、融資回答が遅れたり、そもそも審査が通らない
要するに、私道負担のある土地売却の落とし穴は、「証拠」「承諾」「説明」の3点セットが未整備なときに深くなります。とはいえ、他の所有者さんと共有している私道では、問題解決に向けて動こうにも所有者全員の同意取得が現実的な壁と言えます。
私道負担の問題が将来的なリスクの芽に?
一方で、今すぐ売らない場合でも、私道負担の問題を放置すると将来的なリスクが積み上がります。私道は日々の暮らしを支える「生活インフラの一部」です。ところが、承諾や管理の取り決めが曖昧なまま時間が経つと、修繕や改修の場面で思わぬ事態にあいかねません。
①ライフラインの更新が難しい
まず、ライフラインの更新が難しい点。給排水管やガス管の交換、宅内のリフォームに伴う配管の引き直しには、私道を一時的に掘る手続きが避けられません。同意書や復旧方法の取り決めがないと、工事日は決まりません。特に急を要する故障でも、承諾集めからやり直しになると復旧が遅れ、生活に直結する不便が続きます。
②私道の維持管理
つぎに、私道そのものの維持管理です。舗装のひび割れや段差、排水不良を放置すると、雨天時の冠水や陥没、転倒リスクが高まります。「誰が、どの範囲を、どの頻度で、いくらで行うか」を決めていないと、結局は私道共有者間の関係悪化を招きがちです。救急車や消防車が入れない幅員や段差のままでは、いざという時の安全も脅かされます。
③建て替えや増改築にも影響
さらに、建て替えや増改築にも影響します。狭い前面道路では重機が入れず、手作業が増えて工期と費用がふくらむ上、建築計画の自由度も下がります。たとえば、耐震改修やバリアフリー化を進めたくても、搬入ルートや掘削の同意が取れなければ、工事内容を縮小せざるを得ません。
その結果、私道負担のある土地は住むにせよ手放すにせよ、将来的なリスクの芽を摘んでおかなければ市場評価が下がります。逆に、「清掃・補修・費用分担・重量車両の可否・事故時の連絡と負担、そして所有者が変わっても効力が続く承継条項」を簡潔な管理協定として文書化しておけば、将来不安は薄れていくでしょう。
「制度理解が重要」共有私道ガイドラインと令和5年の民法改正が後押し!

これらについて、国としても問題意識を持っており、解決に向けた制度を用意しています。うまく使っていくためには「制度理解が重要」です。
①共有私道ガイドライン(現・所有者不明私道への対応ガイドライン)
概要としては、共有の私道について、補修・修繕などの管理行為を進める際の判断基準や進め方、同意の取り方、所在不明共有者さんへの対応、文書化の要点(承継条項の考え方を含む)をまとめた実務指針です。法的拘束力はありませんが、行政や現場で広く参照されます。
背景には、共有者全員同意の原則が壁となって、老朽化や補修停滞が全国で問題化したことがあり、2018年に策定されました。保存・修繕と形状変更の線引きや、共有者さんの不同意・所在不明に配慮した進め方が整理されています。
使いどころは、合意形成が難航した場合に、どの範囲の作業なら進められるか、どう文書化すべきかの判断材料になります。管理者選任の活用や裁判所ルートとの接続も確認でき、実務の立て直しに役立っています。
②「管理不全土地・建物」に対する新たな財産管理制度が創設・拡充
概要としては、管理が不十分で周囲に支障を生じる恐れがある土地や建物について、利害関係にある人等の申立てにより、裁判所が財産管理人を選任し、許可のもとで必要な修繕・管理・一部処分まで実施できる仕組みです。
背景に、所有者不明や不同意で必要な管理が進まず、安全・衛生・生活に影響が出る事例が増え、既存制度では対応が難しい場面があったことがあります。2023年の民法改正でルールが整備・拡充されました。
使いどころは、共有私道の補修や排水改善など「放置できない管理」を、全員同意が集まらない状況でも法的ルートをもって前に進める際に有効です。前述のガイドラインで整理した合意文書や管理の基本線と組み合わせると、現実的な解決策を提示しやすくなります。
これらの意義は、合意が難航しても「安全・衛生・近隣利益」を守るための手段が明確になったこと。そして売却の現場目線では、通常の合意形成にまず取り組みつつ、行き詰まりには上記「制度を後押し」として提示できることが、買主さんの将来不安を下げる材料になります。
私道負担のある土地を売却するための下準備とは?
ここまでを踏まえ、私道負担のある土地を売却するための下準備を3ステップで提示します。
①一次情報の収集
・各自治体の指定道路図や道路台帳で、道路種別や幅員、指定番号などを確認する
・法務局で公図や地積測量図、登記事項証明書を取得し、公道か私道かの別、私道持分の有無や割合、通行地役権の有無などを確認する
・現況写真、実測平面、セットバック想定線、有効宅地の算式メモを作り、「見える化」する
②承諾書の雛形化と合意形成
・通行承諾書や掘削承諾書には、目的(通行・掘削・復旧)、範囲(区間・幅員・時間)、復旧基準、損害負担、承継条項(所有者が替わっても効力が続く)を明記する
・地図や写真つき説明資料を用意し、順番に説明の上で押印し、共有者一覧と連絡台帳を作成する
・所在不明者や不同意が見込まれる場合は、早めに専門家(弁護士や司法書士、土地家屋調査士など)へ相談し、管理者選任や裁判所許可の可否を検討する
・必要に応じて通行地役権の設定や登記もするが、金融機関の要件と費用対効果で判断する
③価格根拠と説明資料作成
・有効宅地面積、セットバック面積、私道の維持管理や復旧コスト、工事制約(大型車進入や掘削の可否)を数字で整理する
・参考評価(路線価・固定資産税評価等)や周辺事例を添え、私道部分の扱いは「評価の取り扱いが地域や条件で異なる場合がある」ことを注記して透明性を確保する
・自身の判断基準を助けるために、後述する各売却方法について、売却活動期限と価格のバランスを比較できるよう資料にまとめる
これらを徹底して下準備できれば、「売却価格がブレにくく売却活動を短期化」することが可能となります。
「価値最大化と早期売却」2軸で決める行動戦略!
さいごに、私道負担のある土地を売却するための行動戦略として、「価値最大化」と「早期売却」の2軸から決めることを提案します!
まず、価値最大化を狙う場合は、以下の3点。
①隣地所有者へ売却する
ひとつ目に、隣地所有者さんへ売却する方法。隣地所有者さんにとって、あなたの土地を取得することは、自身の土地の価値を高める絶好の機会となり得ます。例えば、ライフステージの変化で広い住宅を求めていたり、土地が整形地になることで建築プランの自由度が上がったりします。そのため、一般市場の相場より高い価格で購入してくれる可能性もあり、とりあえず声をかけてみる価値はあります。
②隣地所有者とともに売却する
ふたつ目に、隣地所有者さんに買取の打診をした際に、同じく売却の意向がある場合もあります。単独では売却しにくい土地でも、隣地と合わせて「一つの広い土地」にすることで、建売業者などの法人買主への売却可能性も。結果的に、単独で売るよりも一区画あたりの単価が高い売却が期待できる手法です。ただし、隣地所有者との条件調整や合意形成が不可欠となります。
③単独で通常売却する
みっつ目は、一般的な仲介によって単独で通常売却する方法です。隣地所有者さんの「食指が動かない」「関係が悪い」といった理由で連携を取ることが難しい場合、これまでに解説した下準備を徹底した上で、不動産仲介業者を通じて一般市場で買主さんを探します。広告等を打ち広く募るため、適正な市場価格での売却が期待できますが、私道負担という条件をどう評価されるかによって、売却期間や価格が左右される可能性があります。
一方で、承諾取得や合意形成、及び一般市場で売却が期待できない等、売却活動が難航しそうな場合は、「早期売却」も狙える不動産買取を併走させる考え方もあります。「一定期間内に仲介で売れなければ、買取を選択する」ということであれば売却の出口が確保され、安心して価値最大化を目指す売却活動に専念できます。
もしくは、「早期の資金確保を望んでいる」「多くの手間をかけたくない」といった場合には、仲介などを考えずに始めから不動産買取を選択するのも一つの手です。
ただ、買取を利用しての売却価格は、一般的な仲介による市場相場よりも低くなる可能性は否めません。とはいえ、私道負担のある土地を不動産買取で手放すなら、他にもメリットがあります。
・売却後に土地の欠陥が見つかっても、契約不適合責任(契約と内容が違ったときの売主責任)が免除される可能性がある
・承諾取得や合意形成が進んでいなくても、現状のままで売却できる
・他の私道共有者に知られることなく、プライバシーを守りながら売却手続きが進められる
価格を優先するなら隣地所有者さんとの連携や通常売却、期限や手間を優先するなら買取寄りとして、あらかじめ切替の判断日を定めておくと、交渉の主導権を保ちやすくなります。ともあれ、業者選定を早めにしておくことをおすすめします!
まとめ
今回の記事では、私道負担のある土地の売却の落とし穴や、状況に合わせた最適な売却戦略の立て方まで、分かりやすく解説していきました。
「私道負担」とは「所有する敷地内の一部または接道部分が私道として機能し、その面積や管理において自由には使えず制約や負担が及ぶ状態」で、有効宅地が小さくなり建築計画や価格に影響します。
ポイントとなるのが「接道義務」で、「原則として敷地は幅員4m以上の建築基準法上の道路に2m以上接しなければならない」とされ、全面道路が4m未満なら道路の一部として敷地を提供するため、私道負担は発生します。
私道負担のある土地を売却するなら、「落とし穴」があります。
①条件面の不明確さ
②承諾書面の未整備
③説明の難しさ
問題解決には所有者全員の同意取得が必要です。
一方で、「生活インフラの一部」である私道負担の問題は将来的なリスクになります。
①ライフラインの更新が難しい
②私道の維持管理
③建て替えや増改築にも影響
ただ、共有者との話し合いが行き詰まった場合でも、「共有私道ガイドライン」や民法改正による新たな財産管理制度など、国が整備したルールが解決を後押ししてくれます。
ここまでを踏まえ、私道負担のある土地を売却するための下準備は以下。
①一次情報の収集
②承諾書の雛形化と合意形成
③価格根拠と説明資料作成
これらを徹底して下準備できれば、「売却価格がブレにくく売却活動を短期化」することが可能となります。
さいごに、私道負担のある土地を売却するための行動戦略として、「価値最大化」と「早期売却」の2軸から決めます。
まず、価値最大化を狙う場合は、以下の3点。
①隣地所有者へ売却する
②隣地所有者とともに売却する
③単独で通常売却する
一方で、売却活動が難航しそうな場合や、早期に手間なく資金確保を望む場合には「早期売却」も狙える不動産買取を併走させる考え方もあります。売却価格は仲介による市場相場よりも低くなる可能性は否めませんが、不動産買取には他にもメリットがあります。
・契約不適合責任が免除される可能性がある
・手続きを省略し現状のままで売却できる
・プライバシーを守りながら売却手続きが進められる
期限や手間を優先するなら不動産買取として、業者選定を早めにしておくことをおすすめします!
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