相続人申告登記だけでは売却できない?実家を手放す持分買取という出口

独自のノウハウにより、入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可物件など、他の不動産会社では取り扱いづらい「お困り物件」を解決に導いてきた、不動産・用地開発のスペシャリスト・株式会社エスエイアシストがお届けする「お困り物件コラム」。第163回目は「相続人申告登記だけでは売却できない?」です。

実家の相続登記を放置していたものの、「相続登記義務化」の流れを受けて、慌てて「相続人申告登記」を済ませたという方もいるのではないでしょうか。ただ、他の相続人との関係が悪かったり希薄だったりしたことで、「登記したのだから、必要になれば売却はできるはず…」と考え、正式な相続登記を行わずに手続きを止めてしまう人は少なくありません。しかし結論から言うと、相続人申告登記だけでは不動産を売却できないのです。とはいえ、過料や増税を避けながら、実家を手放す現実的な出口は残されています。

今回の記事では、相続人申告登記の思わぬ落とし穴から、放置に潜むリスク、国の制度の限界、そして「持分買取」という出口までを、順を追ってわかりやすく解説します。読み終えるころには、あなたの実家に合った次の一手が見えてくるはずです。ぜひ最後までお付き合いください。

お困り物件買取事業

相続人申告登記とは?法改正で生まれた「仮の手続き」

はじめに前提を整理します。いま注目される「相続登記義務化」とは、「相続した不動産の名義変更(相続登記)を、相続人に法律上の義務として課す制度」のことです。2024年4月から施行されました。

背景にあるのは、所有者が分からないまま放置される「所有者不明土地」の増加という社会問題です。国土交通省の資料によると、2016年時点で全国の所有者不明土地は約410万ヘクタールにのぼり、九州本島の面積を上回る規模と推計されています。そして、その主な原因が相続登記の未了とされています。

国も問題視しているこの状況を解消するため、義務には以下のような特徴があります。

①違反時は過料の対象となる
まず、相続登記を義務とし「不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しない場合、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象」になります。

②過去の相続にもさかのぼる
また、相続登記の義務化は過去の相続にもさかのぼって適用されます。2024年4月より前に相続した未登記の不動産も対象で、すでに相続したことを知っていた場合は、原則として2027年3月31日までに申請する必要があります。

③簡易な措置として「相続人申告登記」が新設された
そこで簡易な措置として新設されたのが「相続人申告登記」です。遺産分割協議がまとまらず、すぐに正式な名義変更ができないときでも、相続人の一人が単独で「自分は相続人です」と法務局へ申し出ることで、申請義務を果たしたとみなされます。

相続人申告登記には、他の相続人の同意が不要で、登録免許税がかからない手軽さがあります。ただし、ここで押さえておきたいのは、あくまで「義務を果たしたとみなす仮の手続き」だということ。

相続人申告登記をしても不動産は売却できない理由

この「相続人申告登記」の最大の落とし穴は、これだけでは不動産の売却に必要な登記手続を完結できないことです。理由を3つに分けて解説します。

①所有権を移す手続きではない
まず、相続人申告登記は不動産の権利関係(所有権)を移すものではありません。登記上の所有者として買主に名義を変更できないため、実質的に不動産を売却して引き渡すことができません。

②不動産売却には別途「正式な相続登記」が必要
次に、売却するには遺産分割協議などによる正式な相続登記(登録免許税は固定資産評価額の0.4%)を別途申請する必要があります。申告登記は、この正式な登記の代わりにはなりません。

③放置するほど相続人が増えていく
さらに、(相続人申告登記をしただけの状態を)放置するほど相続人が増えていく点も見逃せません。相続が発生したまま長期間が過ぎると、次の世代の相続(数次相続)が重なり、権利関係が複雑になります。全員の同意が前提となる不動産全体の売却は、関係者が増えるほど実質的に難しくなります。

つまり「過料を回避できた=解決」ではありません。申告登記で一息ついても、売却という出口は開いていないのです。

相続人申告登記で過料を逃れても固定資産税が上がる

そのため、「とりあえず申告登記だけして、あとは放置」という判断には、別のコストがついて回ります。

①二度手間になる
ひとつは二度手間です。遺産分割が成立したら、取得した相続人は成立日から3年以内に、改めて正式な相続登記を申請しなければなりません。申告登記はあくまで仮の措置であり、最終的には一から正式な登記手続きを行う必要があります。

②固定資産税の負担が増える
もうひとつが固定資産税の負担増です。住宅が建つ土地は「住宅用地特例」で固定資産税が軽減されていますが、管理を怠った空き家は、この優遇から外れる場合があります。

具体的には、倒壊などの恐れがある「特定空家(そのまま放置すれば著しく保安上危険・衛生上有害となるおそれのある空家等)」だけでなく、その前段階の「管理不全空家(適切な管理が行われず、放置すれば特定空家になるおそれのある空家等)」も対象です。自治体から改善の「勧告」を受けると、住宅用地特例の適用対象から除外されます。

注意したいのは、特定空家や管理不全空家に認定された時点で即座に税が跳ね上がるわけではなく、「勧告」が分かれ目になるという点です。勧告は、「税の優遇措置を失う前の最後の警告」とも言えます。

これを受ける前に動くかどうかで、維持費を払い続けるだけの「“負”動産(負債になってしまう不動産)」になるか否かが変わります。

実家空き家を手放すのに国の制度は使える?

放置空き家について、国も問題視しています。「売りにくい」「放置している」不要となった実家空き家を手放す公的な制度もあります。

①相続土地国庫帰属制度
まず、「相続土地国庫帰属制度」は、いらない土地を国に引き取ってもらう制度です。しかし対象は更地が原則で、建物があれば自己負担で解体が必要になります。承認されても、原則一筆20万円からの負担金を納めなければなりません。家屋付きの実家には、そのままでは使いにくい制度です。

その他、この制度の重要要件は以下。
・相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る)で土地を取得した人が対象(売買で取得した人は原則対象外)
・土地に担保権や他人の利用権がある土地などは申請できない(却下要件)
・境界が明らかでない土地や争いのある土地も対象外
・申請時に1筆あたり1万4,000円の審査手数料がかかる(却下・取下げでも返還されない)
・承認後に負担金の通知を受けた日から30日以内に納付しないと承認が失効する

②相続空き家の3,000万円特別控除
次に、売却益に対する税金を抑えたいなら、「相続空き家の3,000万円特別控除」が有力です。昭和56年5月31日以前に建てられた家屋を、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るなどの要件があります。

その他、この制度の重要要件は以下。
・区分所有建物(分譲マンション等)でないこと
・相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと
・耐震基準を満たすよう改修して売るか、取り壊して更地で売ること(令和6年以降は譲渡後一定期限までに買主が解体・改修する場合も対象)
・売却代金が1億円以下であること
・相続から売却までに事業や貸付け、または居住の用に使っていないこと
・令和6年1月1日以後の譲渡で取得した相続人が3人以上の場合、控除上限は1人2,000万円に縮小される。

なお、現状、この特例の適用期限は令和9年12月31日までの譲渡となります。

また、見落とされがちですが、親が老人ホームに入所していた場合でも、要介護認定などの「特定事由」による入所で一定の要件を満たせば、控除を使えるルートがあります。

ただ、見ての通り、いずれも条件が厳しく、使いこなすのは簡単ではありませんし、このあと解説する「家屋を現況のまま手放す持分買取」とは前提が異なることには注意です。国庫帰属や特別控除を確実に活かしたいなら家族との合意が必須となります。

実家不動産を手放すためにやるべきこと

ここからは、実家不動産を手放したい人がやるべき手順を整理します。

①相続登記までの道筋を知る
売却の前提として、相続登記は避けて通れません。被相続人から買主へ直接名義を移す「中間省略(中間の相続登記を飛ばして登記すること)」は原則認められず、いったん相続人名義への相続登記を経由する必要があります。遺産分割協議がまとまらなくても、法定相続分による相続登記なら単独で申請できます。

②自分の持分は単独で手放せると知る
通常、相続した不動産は遺産分割が終わるまで、相続人全員の共有になります。ただ、その共有持分は、自分の分だけなら他の相続人の同意なく処分できます。

③登記と売却に強い専門家・業者に相談する
相続登記が終わっていない放置状態でも、司法書士に依頼すれば、面倒な戸籍の収集から登記手続きまでを任せることが可能です。一人で抱え込む必要はありません。

協議や登記には、どうしても時間がかかります。まとまるのを待てない、待ちたくないという場合は、自分の持分だけを先に手放して共有関係から抜けるという道もあります。

一つだけ補足します。自分の持分を業者に売ると、残る相続人と業者が共有関係になり、場合によっては関係が気まずくなることもあります。

協議がまとまらない実家は「持分買取」で個別に手放す

最後に具体的な出口を示します。それが、専門の買取業者による「持分買取」という選択肢です。相続人申告登記では開かなかった「売却」という出口も、持分買取なら現実的に見えてきます。

①自分の持分だけを単独で現金化できる
まず、共有持分の買取に対応する業者であれば、自分の持分だけを「他の相続人の同意なく」「近隣に知られることなく」「現況のまま」「短期間で」現金化できます。広告を出さずに直接買い取るため、売却の事実が周囲に漏れる心配も小さく済みます。

②未登記でも司法書士に依頼して進められる
また、相続登記が未了の場合でも、まずは司法書士に依頼して登記を進めれば、その後の買取をスムーズに行えます。面倒な戸籍の収集から法務局への登記申請まで段取りを一任できるため、大きな安心材料になります。

③買取価格は一般市場の相場より下がる傾向がある
一方で、正直にお伝えすべき点もあります。共有持分の買取価格は、一般市場の相場より下がる傾向にあります。ただ、だからこそ「少しでも高く売る」より「早く確実にトラブルから抜ける」ことに価値を感じる方に向いた方法だといえます。

他の共有者全員での売却も、持分だけの個別離脱も、どちらが正解ということはありません。大切なのは、放置して状況を悪化させる前に動き出すこと。その一歩が、結果的に心の負担を軽くします。

まとめ

今回の記事では、相続人申告登記の思わぬ落とし穴から、持分買取という出口までを、解説してきました。

はじめに前提となる「相続登記義務化」とは、「相続した不動産の名義変更(相続登記)を、相続人に法律上の義務として課す制度」で、2024年4月から施行されました。

背景には、「所有者不明土地」の増加という社会問題があり、この状況を解消するための今回の義務化には以下のような特徴があります。
①違反時は過料の対象となる
②過去の相続にもさかのぼる
③簡易な措置として「相続人申告登記」が新設された

相続人申告登記には、他の相続人の同意が不要で登録免許税もかからず手軽ですが、あくまで「義務を果たしたとみなす仮の手続き」であり、これだけでは不動産を売却できない上、問題も残ります。
①所有権を移す手続きではない
②不動産売却には別途「正式な相続登記」が必要
③放置するほど相続人が増えていく

つまり「過料を回避できた=解決」ではないので、放置すれば別のコストがついて回ります。
①二度手間になる
②固定資産税の負担が増える

具体的には、倒壊などの恐れがある「特定空家」やその前段階の「管理不全空家」に認定され、自治体から「勧告」を受けると、住宅用地特例の適用対象から除外されます。

この勧告を受ける前に動くかどうかで、維持費を払い続けるだけの「”負”動産」になるか否かが変わります。

「売りにくい」「放置している」不要となった実家空き家を手放す公的な制度もあります。
①相続土地国庫帰属制度
②相続空き家の3,000万円特別控除

ただ、いずれも条件が厳しいため、制度に頼らずに実家不動産を手放したい人がやるべき手順を整理します。
①相続登記までの道筋を知る
②自分の持分は単独で手放せると知る
③登記と売却に強い専門家・業者に相談する

この協議や登記には、どうしても時間がかかります。まず目指したいのは家族での全体売却ですが、まとまるのを待てない、待ちたくないという場合は、専門の買取業者による「持分買取」という選択肢があります。
①自分の持分だけを単独で現金化できる
②未登記でも司法書士に依頼して進められる
③共有持分の買取価格は一般市場の相場より下がる傾向にある

ただ、だからこそ「高く売る」より「早く確実にトラブルから抜ける」ことに価値を感じる方に向いた方法だといえます。

協議や登記が思うように進まず、共有関係から早く抜け出したいときは、自分の持分だけを手放すことも、現実的な選択肢のひとつです。「相続人申告登記で一区切り」と安心せず、まずは現状を整理することから始めてみてください。

共有持分や相続物件は、再建築不可・底地・老朽家屋など、別の「お困り要素」が重なっていることも少なくありません。

私たちエスエイアシストは、用地開発の知見を活かし、一般の不動産会社が敬遠しがちな複合的な問題を抱えた物件も数多く解決してきました。単に持分を買い取るだけでなく、出口まで描けるのが強みです。
「どこに相談すればいいか分からない」「家族に迷惑をかけたくない」と感じている方こそ、ひとりで抱え込まず、まずは現状をお聞かせください。お客様の状況やご希望を踏まえ、無理のない出口プランを一緒に考えます。お困りの物件でお悩みの方は、ぜひエスエイアシストまでご相談ください。

【参考エビデンス・出典】

・人口減少時代における土地政策の推進〜所有者不明土地等対策〜(国土交通省)
所有者不明土地が2016年時点で約410万ヘクタール、九州本島を上回る規模と推計される根拠
URL:https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000099.html

・相続人申告登記について(法務省)
相続人申告登記は権利関係を公示せず、売却には別途正式な相続登記が必要である根拠
URL:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html

・被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁・No.3306)
3,000万円控除の要件、売却代金1億円以下、相続人3人以上で2,000万円に縮小する根拠
URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

・「特定空家等に対する措置」に関するガイドライン(国土交通省)
特定空家・管理不全空家への「勧告」で住宅用地特例から除外される根拠
URL:https://www.mlit.go.jp/common/001090470.pdf

・相続土地国庫帰属制度のご案内(法務省)
対象は更地が原則、審査手数料・負担金など国庫帰属の要件の根拠
URL:https://www.moj.go.jp/content/001399973.pdf

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