
独自のノウハウにより、入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可物件など、他の不動産会社では取り扱いづらい「お困り物件」を解決に導いてきた、不動産・用地開発のスペシャリスト・株式会社エスエイアシストがお届けする「お困り物件コラム」。第159回目は「土地と建物の名義が違う場合の売却」です。
「実家の土地は父親名義のまま、建物だけが自分の名義になっている」、そんな物件の不動産売却を考えたものの、親が元気なうちは話題にしづらく、兄弟姉妹に切り出すのも気が引ける…。そうして立ち止まってしまう方は少なくありません。
さらに2024年4月からは相続登記が義務化され、親から受け継いだ実家の名義問題が老後の生活設計や兄弟間の関係性、さらには相続税の負担にまで直結するケースが増えています。
結論から言うと、名義が異なる不動産でも売却は可能です。ただし、選ぶ手段によって手間や費用、売却価格、解決までの期間が大きく変わります。これらの判断一つひとつで、最終的に手元に残る金額や心理的な負担に大きな差が生まれます。
今回の記事では、名義が分かれた背景から売れにくい理由、法的リスクや税務の注意点、現実的な選択肢まで順に整理し、自分の状況に合った解決策を見つける道筋を分かりやすく解説します。読み終えたとき、「次に何をすればよいか」が具体的に見えてくるはずです。ぜひ最後までお付き合いください。
土地と建物の名義が違う不動産が生まれる理由

なぜ「名義バラバラの状態が生まれるのか?」を整理しておきましょう。背景を理解すると、自分のケースがどのパターンに近いかが見えてきます。
まず不動産の基本として、土地と建物はそれぞれ独立した不動産として登記されます。土地の所有者と建物の所有者が別人であっても、法律上は違法ではありません。この「土地と建物を別々に登記できる」という仕組みが、名義のずれが生じることにつながります。
名義がずれる理由として、代表的なものに次の3つのパターンがあります。
①親の土地に子どもが「使用貸借」で家を建てたパターン
代表的なケースとして挙げられるのが、親が所有する土地に子ども世帯が新築を建てたパターンです。この場合、多くは土地を無償で使わせる「使用貸借(しようたいしゃく)」の形をとっています。「親の土地だから安心」と考えがちですが、相続の場面で一気に立場が不安定になる点に注意が必要です。
「使用貸借」とは、地代や賃料を支払わず、無償で物を借りる契約(民法第593条)のことで、地代を支払う「借地権」とは法的性質がまったく異なります。借地権は借地借家法によって、契約期間や更新が強力に守られています。一方、使用貸借にはその保護がなく、土地所有者(親)が亡くなって相続が発生すると、土地を相続した他の親族(兄弟姉妹など)から立ち退きや地代の支払いを求められるといったトラブルに発展しやすい構造を持っています。
①新しい借地人への「不安感」が大きい
次に、遺産分割協議が終わらないまま時間が経過し、土地と建物の名義がねじれた状態で固定されてしまうパターンです。たとえば、親名義の土地の上に子ども名義で建物が建っていた状態で親が亡くなり、土地の遺産分割が成立しないままになっている場合、土地は相続人全員の共有名義、建物は子ども単独名義という、関係者の多い複雑な名義状況が生まれます。最初は数人の話し合いで済んだはずが、次の世代に持ち越されると関係者がさらに増え、収拾がつかなくなっていきます。
③土地と建物で夫婦間の別名義のパターン
そして、夫名義の土地に妻名義で建物を建てた、あるいはその逆といった、夫婦間で土地と建物の名義が分かれているケースです。婚姻中は問題が表面化しにくいものの、離婚や相続のタイミングで売却を検討する段になると、双方の合意形成が一気に課題となります。特に離婚後も名義をそのままにしている場合は、元配偶者への連絡と同意が必須となり、関係が悪化していれば交渉自体が大きな負担となります。
いずれも、親族間の厚意による口約束や、相続や離婚といった節目での手続きの先送りが、名義のずれを生んでいます。
土地や建物の名義不一致が売却を阻む3つの問題
そういった土地や建物の名義が違う物件を売却しようとすると、一般的な不動産売却とは異なる壁が立ちはだかります。ここでは特に大きな3つの問題を整理します。それぞれの問題は独立しているように見えて、実は連動しているのが厄介な点です。
①土地だけや建物だけでは買い手がつきにくい
まず、名義が分かれた状態のまま土地だけ、あるいは建物だけを売り出しても、一般の買い手はほとんど現れません。土地だけを購入しても建物の所有者が存在するため自由に利用できず、建物だけを購入しても土地の使用権が保証されないからです。
特に使用貸借の場合、買い手が建物を取得しても土地所有者の相続人から立ち退きを求められるリスクが残ります。こうした権利の不安定さから住宅ローン審査も通りにくく、一般市場では需要が著しく低下します。
②土地と建物を一体で売却するには名義人全員の合意が不可欠
また、土地と建物を一体として一般市場に売却する契約には、土地と建物それぞれの名義人全員の署名や実印、印鑑証明書が必要です。一人でも同意が得られなければ、それだけで一体での売却の話は止まります。それは、資金不足で相手の持分を買い取れない場合も同様です。
もし、その中の名義人の一人が行方不明であったり、認知症などで意思疎通が難しい状態であったりする場合、通常売却を前に進めることができず、後述する家庭裁判所の手続きが必要となります。
③相続登記義務化は名義が複雑だと手続きが重い
さらに、2024年4月に施行された相続登記の義務化(不動産登記法第76条の2)で、相続を知った日から3年以内の登記申請が法的義務となりましたが、名義が複雑だと手続きが重くなります。たとえば3代にわたって相続登記が放置されていた場合、関係者全員の戸籍を遡って取り寄せ、遺産分割協議書を作成する必要があり、手続きの手間や司法書士などへの依頼費用が大きく膨れ上がります。
登記が放置されたままだと、もはや登記簿上の所有者と実際の所有者が一致しない「所有者不明土地」問題に直結し、売却・活用の道が事実上閉ざされてしまいます。
土地と建物の名義が違う状況を放置するリスク
もしも「いずれ何とかしよう」と先延ばしにすればするほど、問題は雪だるま式に深刻化していきます。ここからは、放置が招く具体的な4つのリスクを確認しておきましょう。
①相続を重ねるたびに面識のない権利者が増える
名義人の一人が亡くなると、その持分は法定相続人全員に引き継がれます。相続手続きが終わらないうちに、これが繰り返される状態を「数次相続(すうじそうぞく)」と呼びます。これは、同意を取り付けるべき相手の数が増えるだけでなく、面識のない遠縁の親族と交渉しなければならない状況が現実に起こり得ます。
②所在等不明の名義人がいると費用と時間が膨らむ
中には、一切の連絡が取れない所在等不明の名義人が出てきます。その場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人(行方不明者に代わって財産を管理・処分するために、家庭裁判所が選任する人)」の選任を申し立てる必要があります。申立てから選任、その後の手続き完了まで含めると半年〜1年以上かかることが一般的です。さらに、家庭裁判所への予納金(数十万円〜100万円程度が目安)を納める必要があれば、費用と時間の両面で大きな負担となります。
③認知症の名義人がいると成年後見制度が必要になる
そして、名義人の一人が認知症などで判断能力が低下している場合は、「成年後見人(判断能力が不十分な人の財産管理や契約行為を代行するために、家庭裁判所が選任した人)」の選任が必要となります。その名義人の居住用不動産であれば、売却には家庭裁判所の許可が必要で、許可が下りるまで売却を進めることはできません。さらに後見人には継続的に後見報酬(月額2〜6万円程度。東京家庭裁判所の報酬付与の基準等を参照)が発生し続けます。
④相続登記の経過措置期限が迫っている
先述した相続登記義務化は、2024年4月以前に相続が発生した未登記物件も対象です。経過措置として設けられた申請期限は、2027年3月31日か、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内のいずれか遅い日までです。この期限までに対応しなければ、法務局からの催告を受け、正当な理由がなければ10万円以下の過料が科される可能性があります。
土地と建物の名義が違う状況を放置することは、問題をただ大きくしているだけなので、適切な対応が求められます。
名義が違う不動産で確認すべき税務・権利関係の注意点

そして、名義整理や売却に際しては、税務面や権利関係で思わぬ落とし穴があります。ここで取り上げるのは放置リスクとは性質が異なり、売却の手続きそのものに影響する実務上の注意点です。特に、以下の点は必ず確認しておくことが重要です。
①親族間譲渡は贈与とみなされる
一つ目に、親族間での低額譲渡や無償での名義移転を行うと、適正な時価との差額が贈与とみなされ、贈与税が課される可能性があります。「親族間のやり取りだから問題ない」という認識は誤りです。たとえば、市場価格3,000万円の土地を親から子へ500万円で譲渡した場合、差額の2,500万円が贈与とみなされて課税される、といった事態が現実に起こり得ます。名義変更の方法を決める前に、必ず税理士に相談してください。
②3,000万円特別控除の特例は親族間では使えない
二つ目に、名義一本化後の売却では、マイホームの売却益にかかる税金を最大3,000万円まで控除できる「居住用財産の3,000万円特別控除」の適用を検討できます。ただし、親子や夫婦など特別な関係にある者の間での取引(親族間売買)では、この特例が原則として除外されます(国税庁タックスアンサー No.3306参照)。「特例を使えるはずだったのに、後から知って適用外だった」では取り返しがつかないため、こちらも税理士への確認が必須です。
③借地権がある場合は別途ハードルがある
三つ目に、土地に借地権が設定されていて、地主に地代を払っている場合、建物を売却するには地主の承諾が必要です。承諾が得られない場合は「借地権譲渡許可の非訟(ひしょう)手続」で裁判所の許可を得る方法もありますが、借地権を譲渡する際には地主から譲渡承諾料を請求されるケースもあり、現実には高いハードルとなります。
補足として、「借地非訟手続」とは、借地に関する紛争を、通常の訴訟ではなく非訟事件として裁判所が判断する手続きを指します。借地権の譲渡について地主の承諾が得られない場合などに利用されます。
これらは、判断間違いや安易な行動によって、取り返しのつかない損失を生みかねないことを肝に銘じておかなくてはなりません。
名義が違う不動産の売却法を選ぶための事前準備
では、土地と建物の名義が違う不動産の売却法を選ぶ前に、事前に次の5つの確認を済ませておくことが重要です。
①不動産の現在の市場価値を査定で把握するい
最初に行うべきことは、所有している不動産が現在いくらで売れるかを把握することです。固定資産税の評価額や購入時の価格は、現在の市場価格とは異なります。不動産仲介業者または買取業者に査定を依頼することで、実際に売却できる額の目安が得られます。査定は無料で受けられることがほとんどで、どの売却法が有利かを比較判断するうえでも役立ちます。
②相続登記の状況を確認して未登記なら先行して申請する
次に、名義が亡くなった方のまま残っている場合は、売却手続きの前に相続登記を完了させる必要があります。登記が完了していないと、買主への名義変更(所有権移転)ができず、実務上スムーズな取引が進まないからです。申請は司法書士に依頼するのが一般的で、遺産分割協議書や固定資産評価証明書などの書類が必要になります。
③名義人全員の現状を確認する
そして、名義人全員が生存しているか、健在で意思疎通が可能かを確認します。行方不明や認知症、意見対立の有無によって、選択できる手段が絞り込まれるため、状況を正確に把握することが出発点となります。判断能力に欠ける者がいれば成年後見人制度の利用を、所在等不明者がいれば不在者財産管理人の選任といった家庭裁判所の手続きを検討する必要があります。
④状況に合った専門家へ早めに相談する
加えて、名義変更の方法と税務リスクの確認には税理士、登記手続きには司法書士が窓口になります。どこから動くか迷う場合は、不動産業者への相談から始めると、売却方法の検討と並行して他の専門家を紹介してもらえるケースもあります。「状況の把握」と「相談」を早めに進めることが、選択肢を広く保つことにつながります。
⑤名義一本化の3段階の実務プロセスを理解しておく
最後に、名義を一本化する手続きには、大きく以下の3段階で進めることになります。そのプロセスを理解することが大切です。
・名義人間で話し合い、贈与や相続、売買のどの方法で名義変更するかを検討する
・選んだ方法の税務上のリスクを税理士に事前確認し、そのうえで条件と合意内容を確定する
・司法書士に依頼して代金の決済(売買の場合)と所有権移転登記を同日に完了させる
これらの事前準備を通じて現状を整理しておくことで、土地と建物の名義が違う不動産の売却法を適切に判断することができます。
土地と建物の名義が違う不動産の売却法3つ
こうして売却に向けた準備が整ったら、状況に合った方法を選びます。土地と建物の名義が違う不動産の売却法には、大きく3つの選択肢があります。
①名義を一本化して一般市場で売却(高値を狙える正攻法)
最も高い売却価格が期待できるのが、どちらかが相手の名義(土地または建物)を買い取って名義を一本化したうえで、一般市場に出す方法です。前述の3段階の実務プロセスと税務確認を経ることが前提となり、購入資金の確保と名義人全員の合意が、実行可否の分岐点です。
両方クリアできる場合には最も有利な選択肢であり、適正価格での売却が実現でき、手元に残る金額を最大化できます。ただし、名義一本化の手続きには数ヶ月かかることもあり、その間も固定資産税や維持費が発生し続けます。
②名義人全員で連携して第三者に同時売却(全員が動ける場合)
もしくは、名義人全員が売却に合意できる場合、名義一本化を経ずに全員が連携して、同一の不動産業者または買取業者と一括で売買契約を締結する方法もあります。事前に全員の印鑑証明書や本人確認書類をそろえ、代金の決済と所有権移転登記を同日に行います。
名義変更の手続きが少なく、合意さえ取れれば市場相場に近い価格での売却が期待できますが、一人でも同意が得られなければ土地と建物を一体として売却することはできません。そのため、全員との意思確認とスケジュール調整が事前に不可欠です。
③現状のまま専門の買取業者に依頼(困難ケースの最短解決)
一方で、行方不明や認知症、意見対立などで上記2つの選択肢が困難な場合や、早期の現金化を優先したい場合は、名義問題や権利関係の複雑な物件を扱い慣れた買取業者に現状のまま依頼する方法が、最短の解決策となります。
不動産買取は、一般仲介売却より価格が下がりやすい点には留意が必要です。ただし、土地と建物の名義が違う不動産の売却において他にもメリットがあります。
・名義交渉や相続登記の手間を業者に任せられる
・短期間で現金化が可能である
・契約不適合責任(契約内容の相違に対する売主責任)が免責されるケースが多い
このように、親族間交渉のコストや法的手続きの費用、時間的な損失を差し引いて考えると、トータルコストを抑えられる場合があります。「早く・確実に・手間なく」解決したい方に合った選択肢と言えるでしょう。
まとめ
今回の記事では、土地と建物の名義が違う不動産の売却について、名義のずれが生まれる背景から売却を阻む問題、放置リスク、税務・権利関係の注意点、事前準備の手順、そして現実的な3つの売却法まで順に解説してきました。
まず、名義がずれる代表的なパターンは以下の3つです。
①親の土地に子どもが使用貸借で家を建てたパターン
②遺産分割が未了のまま相続が重なったパターン
③夫婦間で土地と建物の名義が分かれたパターン
名義が分かれたままでは、次の3つの問題に直面します。
①土地だけや建物だけでは買い手がつきにくい
②土地と建物を一体で売却するには名義人全員の合意が不可欠
③名義が複雑なほど相続登記義務化への対応が重くなる
放置によるリスクは時間とともに複合化します。
①相続を重ねるたびに面識のない権利者が増える
②所在等不明の名義人がいると費用と時間が膨らむ
③認知症の名義人がいると成年後見制度が必要になる
④相続登記の経過措置期限(2027年3月31日)が迫っている
税務・権利関係では、3つの注意点を押さえておく必要があります。
①親族間の低額譲渡は贈与税の対象となり得る
②3,000万円特別控除は親族間売買では原則として適用外である
③借地権がある場合は地主の承諾が別途必要となる
その上で、状況に合った売却法の選択が最終的な結果を左右します。
①名義を一本化して一般市場で売却(高値を狙える正攻法)
②名義人全員で連携して第三者に同時売却(全員が動ける場合)
③現状のまま専門の買取業者に依頼(困難ケースの最短解決)
特に、行方不明・認知症・意見対立など名義人全員の合意が得られない状況では、権利関係が複雑な物件を扱い慣れた買取業者への依頼が、最短かつ確実な解決策となります。名義整理の手間を業者に委ねながら早期に現金化でき、契約不適合責任が免責されるケースも多いため、トータルコストを抑えられる場面が少なくありません。
土地と建物の名義が違う不動産でも、売却の道は必ず存在します。先延ばしにするほど権利関係は複雑化し、選択肢は狭まります。まずは現状の把握と専門家への相談を、一日でも早く始めることが重要です。
私たちエスエイアシストは、入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可物件など、扱いが難しい「お困り物件」のご相談を数多くサポートしてきました。
「どこに相談すればいいか分からない」「家族に迷惑をかけたくない」と感じている方こそ、ひとりで抱え込まず、まずは現状をお聞かせください。お客様の状況やご希望を踏まえ、無理のない出口プランを一緒に考えます。お困りの物件でお悩みの方は、ぜひエスエイアシストまでご相談ください。
【参考エビデンス・出典】
・民法(明治29年法律第89号)第593条
使用貸借契約の定義を定める条文。本記事における「使用貸借=無償で物を借りる契約」の根拠。
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
・法務省 相続登記の申請義務化について
2024年4月施行の相続登記義務化の根拠条文。相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内の登記申請義務を定める。
URL:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
・法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
相続登記義務化の概要、経過措置期限(2027年3月31日/取得を知った日から3年以内のいずれか遅い日)、過料に関する公式案内。
URL:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
・国税庁タックスアンサー No.3306「マイホームを売ったときの特例」
配偶者・直系血族・生計を一にする親族など「特別の関係がある人」への売却は適用対象外となる旨が明記されている。本記事における「3,000万円特別控除は親族間売買では原則として除外されます」の根拠。
URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm



