
独自のノウハウにより入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可など、他の不動産会社が取り扱いづらい“お困り物件”を解決に導いてきた不動産・用地開発のスペシャリスト、株式会社エスエイアシストがお届けする“お困り物件”コラム、第115回目は「土砂災害警戒区域の土地」です。
ときに相続した実家の土地が、土砂災害警戒区域に指定されることがあります。たとえ今は活用していなくとも、これからも維持管理の費用や手間はかかり続けるのであれば、「売却したい!」と考えるでしょう。しかし、土地価格の下落、住宅ローン審査の壁、重要事項の告知義務といった課題が山積み…。そのため、買い手さんはなかなか見つからず、「土砂災害警戒区域の土地はこのまま売れないのでは?」と不安を抱えることになるかもしれません!
今回の記事では、土砂災害警戒区域の基礎知識から、その土地が売れない理由、対策と行政の救済策、そして現況そのままで買い取ってもらい早期に土地を現金化する方法まで、順を追って解説していきます。最後まで読んでもらえれば、損を最小限に抑えつつ安全に資産を手放す方法が見えてきます!
土砂災害警戒区域とは?

まず、「土砂災害防止法」の定義を押さえましょう。この法律は、「土砂災害から住民の生命や身体を保護すること」を目的としています。それによって、各都道府県知事が以下の区域を指定します。
①土砂災害警戒区域(イエローゾーン)
ひとつに、「土砂災害警戒区域」。急傾斜地の崩壊(土砂崩れ)などが発生したとき、住民さんに被害が生じる恐れがある区域を指します。それは、「イエローゾーン」と呼ぶこともあります。
この区域では、市町村地域防災計画による警戒避難体制の整備を進めたり、土砂災害ハザードマップによって周知をしたりすることを、各市町村長等に義務付けられています。
②土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)
その警戒区域のうち、急傾斜地の崩壊(土砂崩れ)などが発生した場合、建築物の損壊とともに、住民の方々の生命に「著しい」危害が生じる可能性が高いと認められる区域を「土砂災害特別警戒区域」もしくは「レッドゾーン」と言います。
この区域内の宅地には、建築物の厳しい構造規制が課せられ、通常の宅地としての用途に利用するには制限が伴います。
もう少し具体的に違いを整理すると、イエローゾーンでは避難体制の整備と周知が中心ですが、レッドゾーンになると特定開発行為(造成・新築など)に知事許可が必須となり、斜面を支えるコンクリート壁などの擁壁(ようへき)の補強や、耐土圧構造などの建築規制が課されます。
また、双方の土地とも資産として見れば、土砂災害の危険性や被害を考慮して価値が下がると評価されるため、相続税評価額などにおいて一定の減価(減額)が認められています(特にレッドゾーンは法的に明記)。これは、言い換えると「土地としての価値が低い」と見なされているということ!
これら区域の確認方法は、各自治体が公開するハザードマップを閲覧すれば、自宅や所有地における位置関係が一目で分かります。地図上で赤・黄に塗られたエリアが該当区域となるため、まずは現状把握から始めてみてください。
土砂災害警戒区域の土地が売れない理由!
この話を聞くと、土砂災害警戒区域に指定されると、「建物が建てられなくなるのでは?」「そもそも誰が買うのか?」といった疑問や不安を抱く方が多くなります。ここでは、警戒区域の土地が市場で売れにくいとされる理由を、具体的に見ていきましょう。
①心理的敬遠
最初に挙げられるのは、買主さんの心理的な敬遠です。見た目は普通の住宅地でも、ハザードマップ上で赤や黄色に塗られているだけで「なんだか危なそう」と感じてしまいます。
特に、小さなお子さんや高齢の親と同居となれば、「災害リスクは避けたい」と考える傾向が強く、候補から外されてしまうことも。たとえ自治体による避難体制の整備や安全対策がされていても、危険なイメージによって買い控えが起きてしまうのです。
②融資審査の壁
つぎに、金融機関による融資審査の壁です。住宅ローンの利用にあたって、レッドゾーン内の土地は非常に審査が厳しいものとなります。中でも、2023年10月に住宅金融支援機構は「フラット35」の金利優遇制度に関して、レッドゾーン内の新築住宅を原則として対象外(基準金利のままなら可)としました。
加えて、多くの民間銀行も土砂災害警戒区域内の物件については「担保価値が下がる」と判断し、融資自体を断るか、借入額を大きく制限する傾向にあります。買主さんが住宅ローンを利用できなければ、そもそも購入自体が困難になります。
③許可取得と追加コスト
さらに深刻なのが、レッドゾーン内における開発・建築の制限と、それに伴う追加コストの発生です。該当の土地で新たに建物を建てようとする場合には、宅地造成や建築に関して都道府県知事の許可が必要になります。この許可取得には事前準備が必要で、手続きには数か月かかるのが一般的です。
その上、多くは土地が崖や斜面に接しており、建築に際して擁壁や排水設備の補強工事が必要です。数百万円単位の費用がかかることも珍しくなく、場合によっては建築そのものが現実的でないと判断されることもあります。
なお、イエローゾーンでは建築物の構造規制はありませんが、心情面において「工事を全く検討しない」ということは別問題です。
買主さんとしては、「許可取得に手間がかかる上に、工事費も膨大。しかもそれで災害リスクがゼロになるわけではない」と考え、購入を断念することになります。
資産価値と不動産契約時のリスク
そんな土砂災害警戒区域の市場相場は、近年下落傾向です。そのため、土砂災害警戒区域の土地をそのまま放置すると、資産価値が大きく毀損するおそれがあります。
実際、J-STAGE(論文プラットフォーム)の分析(2021年)によると、全国904地点のうち約91%で区域指定後も地価下落が続き、うち11%では下落ペースが加速しているとの結果が報告されています。
その影響は税金面にも及び、たとえば埼玉県秩父市では、レッドゾーンの宅地について、固定資産税評価額が0.8倍(20%減)の補正が適用され、2024年度課税分から反映されています。さらに、相続税についても2018年の財産評価基本通達(財産の評価方法を定めたもの)の改正により、最大30%の評価減が認められています。
先述の通り、それは同時に資産価値の目減りを意味する点に注意が必要です。もし不動産を売却するのであれば、契約時に複数のリスクがあり…、
・開発や建築規制:手続きや工事に時間と費用がかかる
・告知義務違反:告知を怠れば契約解除や損害賠償に発展する恐れ
・融資審査の厳格化:担保価値の低迷と買主への融資を断られる可能性
・危険負担:不動産契約後〜引渡し前の自然災害起因の損害に対する責任
中でも、「危険負担」の観点は、自然災害の多くなってきている昨今では不安材料です。2020年4月の民法改正までは、「契約の履行が不能になった場合に、その損失を売主と買主のどちらが負担するのか」という問題がありました。
改正後は、原則として売主さんがその損害を負担することとされています。特約を付けて買主負担とすることも可能ですが、その際は事前の丁寧な説明が不可欠であり、説明不足がトラブルの火種となることもあります。
これらの点を見ても、警戒区域の土地は「持っているだけでコストやリスクが増える資産」になりかねません。だからこそ、できるだけ早い段階での対応が望まれます。
売却活動前にできる3つの対策と救済策!

これらのリスクを回避するために、売却前にできる具体的な3つの対策を紹介します。
①ハザードマップで災害リスクの見える化
はじめに行うべきは、「土砂災害ハザードマップ」の確認です。これは該当エリアの災害リスクを地図上で確認できる便利なツールで、誰でも国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」を活用することで、無料で見ることができます。
売却時には、このハザードマップの印刷またはスクリーンショットを使って、買主さんに「正直に分かりやすく」状況を説明することで、信頼感がアップします。これは、告知義務を果たす意味以上に、安心の取引をする上で重要な意味を持ちます。
②擁壁の検査済証の有無と状態の確認
つぎにポイントになるのが、敷地内にある擁壁の安全性です。古い擁壁でも「検査済証」が残っていれば、安全基準を満たす裏付けになります。もし、検査済証がない場合でも、ひび割れや傾き、排水穴の詰まりを目視点検を行い、必要に応じて専門家に簡易診断(数万円程度)を依頼することで、安全性を証明しやすくなります。
万が一、二段構造や無筋(鉄筋なし)コンクリートなど、法的に適合しない場合、改修や補強が必要になります。
③知事許可の取得
また、レッドゾーン内で家を建てたり土地を造成したりするには、都道府県知事の許可の取得が必要になります。その許可を取るためには、専門家に依頼して測量図や地盤調査の結果、擁壁や排水設備の設計図などの書類を揃えなくてはなりません。
その上で、役所での審査を通して許可が出るまでに、2か月から半年ほどかかるケースもあります。そのため、売却活動前に新たな建物を建てる準備を整えることで、買主さんにとっての安心感につながり、交渉もスムーズに進みやすくなります。
そして、併せて確認すべきものは、行政による救済策の有無の確認もしておきましょう。もしもその土地が、特に危険度の高いエリアにある場合には、国や自治体が用意している「防災集団移転促進事業」という制度を活用できる可能性があります。
この制度は、災害の危険が高い集落ごとに安全な場所へ移転してもらうため、市町村が土地や家屋を公費で買い取ってくれる仕組みです。さらに、移転先の新しい住まいを建てる際にも補助金が出るため、自己負担を大幅に抑えられるメリットがあります。
【売却ルート比較】現況買取で早期現金化する方法とは?
ここまで土砂災害警戒区域のリスクと売却活動を始めるときの事前対策について確認しました。さいごに、(大きく分けて)2つの売却方法を比較しながら、「早期現金化」までの道筋を整理します。
①仲介・空き家バンクで売却
ひとつは、土砂災害警戒区域を仲介や空き家バンクで売却する場合です。最もオーソドックスな売却方法であり、不動産業者さんに仲介を依頼したり、行政が運営する空き家バンクに登録して買い手さんを探していきます。
メリットとしては…、
・相場に近い価格で売却できる可能性がある
・一般的な取引方法なので馴染みがある
ただ、土砂災害警戒区域の物件では、通常の不動産と比べてどうしてもハードルが高くなってしまいます。
・土砂災害リスクがあると敬遠され、売却活動が長引く
・特にレッドゾーンでは金融機関がローンを渋る傾向、その可否で取引不成立の可能性
・リスクの高さから特約なしなら中古住宅の賠償責任は10年と長期にわたる
・価格交渉によって売却価格は希望通りに成立しにくい
・空き家バンクでも売れ残るケースも珍しくない
このように、一般的な売却方法では、「売れにくい・売るまでに時間がかかる・売った後も責任が続く」という負担が大きくなりがちです。
②不動産買取で売却
一方で、不動産買取で売却するのであれば、売却価格は相場よりも低くなるものの、土砂災害警戒区域の物件を安心して手放すことが可能です。不動産買取とは、専門業者さんが現況のまま土地や建物を一括で買い取る仕組みであり、取り引きがまとまれば物件資産を即現金化することができます。
その他、土砂災害警戒区域で売却するメリットは以下もあります。
・現況のままで買取するため、擁壁補修や知事許可などの面倒を省略
・引き渡し後の自然災害や擁壁の状態などの、責任を問われないことが多い
・自己資金で買取するため、ローン審査で取引が流れる心配がない
ただし、買取業者選びには十分な注意が必要です。それは、土砂災害警戒区域の物件についてのノウハウや実績がない業者さんでは、正しく評価することが難しいためです。
・土砂災害リスクに精通している
・擁壁や造成規制の評価経験がある
・契約条件が明確で説明が丁寧な業者
といった条件から、複数の買取業者さんに査定を依頼することが重要。こうしたポイントをしっかりチェックし、信頼できるパートナーを選ぶことが後悔しない取引のコツです。
まとめ
今回の記事では、土砂災害警戒区域の土地が売れない理由、その対策と行政の救済策、そして現況そのままで買い取ってもらい早期に土地を現金化する方法まで、解説していきました。
まず、「土砂災害防止法」は、「土砂災害から住民の生命や身体を保護すること」を目的とし、以下の区域を指定します。
①土砂災害警戒区域(イエローゾーン):土砂災害により住民に被害が生じる恐れがある区域
②土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン):土砂災害により建築物の損壊と住民の生命に「著しい」危害が生じる可能性が高い区域
この区域内の宅地には、建築物の厳しい構造規制と用途利用に制限が伴います。特に、レッドゾーンでは特定開発行為に許可必須、擁壁の補強や耐土圧構造などの建築規制が課されます。
資産として見れば「土地としての価値が低い」と見なされます!
土砂災害警戒区域の土地が売れにくいとされる理由は以下。
①心理的に敬遠される
②融資審査が通りにくいという壁がある
③新築には許可取得と通常より追加コストがかかる
そんな土砂災害警戒区域の市場相場は近年下落傾向なため、土砂災害警戒区域の土地をそのまま放置すると、資産価値が大きく毀損するおそれがあります。
もし不動産を売却するのであれば、「開発や建築規制・告知義務違反・融資審査の厳格化・危険負担」といった複数のリスクがあるため、その際は事前の丁寧な説明が不可欠です。
警戒区域の土地はできるだけ早く対応することが望まれますが、リスク回避するためには売却前に3つの対策をする必要があります。
①ハザードマップで災害リスクの見える化
②擁壁の検査済証の有無と状態の確認
③知事許可の取得
そして、併せて行政による救済策である「防災集団移転促進事業」の有無の確認もしておきましょう。この制度は、集落ごとに安全な場所へ移転してもらうため、土地や家屋を公費で買い取る仕組みです。さらに、移転先の新築時にも補助金が出るため、自己負担を大幅に抑えられるメリットがあります。
その上で2つの売却方法によって「早期現金化」までの道筋を整理します。
①仲介・空き家バンクで売却
メリットとして相場に近い価格で売却できる可能性がありますが、通常の不動産と比べて「敬遠され売却活動が長引く・ローン可否で取引不成立の可能性・賠償責任は長期・売却価格が低くなりやすい・売れ残るケースも珍しくない」といった状況になりがちで、ハードルが高くなります。
②不動産買取で売却
一方で、不動産買取で売却するのであれば、売却価格は相場よりも低くなるものの、現況のまま土地や建物でも即現金化でき、土砂災害警戒区域の物件を安心して手放すことが可能です。
その他、「擁壁補修や知事許可などの面倒を省略・責任を問われないことが多い・ローン審査で取引が流れる心配がない」といったメリットも!
ただし、買取業者選びには土砂災害警戒区域の物件を正しく評価できることが重要。
・土砂災害リスクに精通している
・擁壁や造成規制の評価経験がある
・契約条件が明確で説明が丁寧な業者
といった条件から、信頼できるパートナーを選ぶことが後悔しない取引のコツです。
私たちエスエイアシストも不動産買取業者のひとつです。入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可など、困ってしまう“訳あり物件”のご相談を数々と解決してきた実績があります。ぜひ他社さんと比較して頂ければと思います。難しい物件をお持ちでお困りの方は、一度エスエイアシストにご相談ください!お待ちしています。
