
独自のノウハウにより、入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可物件など、他の不動産会社では取り扱いづらい「お困り物件」を解決に導いてきた、不動産・用地開発のスペシャリスト・株式会社エスエイアシストがお届けする「お困り物件コラム」。第160回目は「管理費滞納中のマンション売却」です。
管理費を滞納したまま、マンションをどうすればいいか分からずに時間が過ぎていく…、そんな状況に追い込まれている方は決して少なくありません。「滞納があると売れないのでは」「競売になったらどうしよう」という不安から、相談することすら躊躇してしまうケースも多く見られます。しかし実際には、管理費を滞納中であってもマンションを売却することは可能です。問題は「売れるかどうか」ではなく、「どのように売るか」にあります。一方で、放置すれば差し押さえや競売といった深刻なリスクが現実になることも事実です。
今回の記事では、管理費滞納中のマンション売却に関する法律上のルール、仲介売却で直面する壁、放置した場合のリスク、時効にまつわる誤解、そして売却前の確認事項と買取という選択肢まで、順を追って整理します。読んでもらえれば、現状を正確に把握し、早めに動くための判断材料を得ることができます。ぜひ最後までお付き合いください。
管理費を滞納中でもマンションは売却できる

まず、「管理費を滞納しているマンションは売却できない」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、それは正確ではありません。まずは売却の前提となる法律上のルールを整理します。
①滞納管理費は買主に引き継がれる
マンションの管理費や修繕積立金の滞納は、「区分所有法第8条」の規定により、物件を購入した買主にも支払い義務が引き継がれます。売主が滞納したまま売却しても、買主が代わりに清算しなければならない仕組みです。 さらに、前の所有者(売主)と新しい所有者(買主)は、法律上「不真正連帯債務(管理組合が新旧どちらの所有者に対しても滞納分の支払いを請求できる)」の関係に置かれます。
②実務では「売却代金から一括清算」が通例
実際の取引では、区分所有者がマンションを処分する場合、売却代金の中から滞納額を清算してから物件を引き渡すのが通例です。買主が未納分を売買代金から控除して代金を支払うということです。滞納総額が売却代金を下回る限り、売却によって問題を解消することができます。
③管理費滞納の消滅時効は5年だが注意が必要
そして、管理費債権は定期給付債権(定期の決まった時期に一定の金額を継続して受け取る権利)として5年の短期消滅時効にかかります(最高裁平成16年4月23日判決)。しかし、管理組合が弁済期から5年以内に訴訟提起や支払督促などの法的手段をとった場合、時効は中断します。
もし、マンション売却を検討するのであれば、「売れるかどうか」ではなく「どう売るか」に焦点を当てることが重要です。
管理費滞納マンションを仲介に出すと直面する3つの壁
たとえ法律上は売却できるとはいえ、不動産仲介による通常の売却では困難を伴います。仲介に出すと直面する3つの壁、その理由を整理します。
①買主が「管理費滞納の引き継ぎ」を敬遠する
まず、区分所有法第8条の規定により、買主は前の所有者(売主)の滞納分もそのまま受け継ぎます。価格が多少安くても、他人の滞納付きでマンションを買いたい一般の個人は少なく、これが市場で買い手を見つける際の最大の壁となります。
②遅延損害金と弁護士費用の総額が膨らみ続ける
次に、管理費を滞納すると、遅延損害金が加算されます。マンション標準管理規約の第60条第2項には、遅延損害金に加え、違約金としての弁護士費用や督促・徴収にかかった諸費用も滞納者に請求できる旨が定められています。滞納期間が長くなるほど最終的に清算すべき総額が膨らみ続けます。
③仲介業者にとって滞納額の「重要事項説明義務」は重い
そして、管理費滞納のあるマンションを売却に出す場合、不動産仲介業者は売買契約に付随する重要事項説明書において、管理費の滞納額を買主に説明する義務を負っています。そのため、滞納の事実を隠して売却することはできず、内見等に至っても最終的に買い手に敬遠されるリスクが常に付きまといます。
これら3つの壁が重なると、不動産仲介だけでは出口が見えにくくなります。売却方法の選択が、結果を大きく左右します。
放置が招く訴訟・差押え・競売という3つのリスク
もしも「もう少し待てば…」と滞納を放置した場合、管理組合は段階的な法的措置に移ります。その深刻さを理解しておきましょう。
令和5年度のマンション総合調査(国土交通省)によると、3ヶ月以上の管理費等の滞納が存在するマンションの割合は全体で30.1%にのぼります。昭和49年以前に完成した高経年マンションでは48.4%、昭和50〜54年完成のマンションでも40.7%と、築年数が高いほど滞納問題が深刻な傾向にあります。滞納は特殊な問題ではなく、多くのマンションで起きている現実です。
①管理組合から支払督促・訴訟(区分所有法第57条以降)を申し立てられる
一つ目に、管理組合は裁判所を通じて支払督促や訴訟を申し立てることができます。訴訟に発展すれば、管理規約の定めに従って滞納元金に加えて遅延損害金や弁護士費用等も上乗せされ、清算すべき総額はさらに増えます。
②預金等の金融資産・マンション(専有部分等)の差し押さえられる
二つ目に、支払督促や訴訟による判決後、管理組合は強制執行を申し立てることが可能になります。強制執行の対象には、マンションの専有部分等の不動産だけでなく、預金等の金融資産も含まれます。滞納を放置し続けると、複数の資産が強制的に差し押さえられるリスクが現実のものとなります。
③悪質と判断されれば競売(区分所有法第59条)に出される
三つ目に、滞納が長期にわたり、他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難と判断されるほど悪質な場合、管理組合は区分所有法第59条に基づく「区分所有権の競売」を申し立てることができます。競売では市場価格を下回る価格で落札されるケースが多く、手元に残る金額がほとんどなくなる可能性があります。
リスクはいずれも、時間が経つほど深刻になります。「早く動く」ことが、選択肢を守る唯一の方法です。
管理費滞納の消滅時効5年と誤解されやすい真実

ときに、先述した「管理費の消滅時効は5年」という知識が、「5年逃げ切れば問題が消える」という誤解につながることがあります。現実を正確に理解しておきましょう。
Q:「5年間、管理費を払わずにいれば時効になりますか?」
A:「時効で全額逃げ切ることは、実務上非常に困難です。」
そもそも時効が完成するには、5年間にわたって管理組合が何も法的措置をとらない必要があります。しかし、管理組合が内容証明郵便などで催告を行い、さらに6ヶ月以内に訴訟提起や支払督促などを行うと、時効の進行は中断(リセット)されます。多くの管理組合は滞納が生じた段階で督促や法的手続きを開始するため、時効の完成をただ待つことは極めてリスクが高いと言えます。
また、仮に一部の時効が成立したとしても、それまでの間に差し押さえや競売の手続きが進んでいれば、住まいを強制的に失うなど取り返しのつかない状況になっていることがほとんどです。時効を「解決策」として頼るのは危険です。
なお、5年以上前の滞納分について「時効の援用(時効の利益を受けるという意思表示)」を行えば、支払いを免れる可能性はゼロではありません(最高裁平成16年4月23日判決等)。ただし、この戦略が有効かどうかは管理組合が適切に時効を中断させているかどうかに依存し、判断が複雑です。時効援用を検討する場合は、必ず弁護士等の専門家に相談したうえで進めてください。
「時効まで待つ」ではなく、「今できる売却方法を選ぶ」という発想の転換が重要です。
管理費滞納マンションの売却前に確認すべき4項目
そこで、管理費滞納中のマンションを売却するには、事前の確認が欠かせません。次の4項目を踏むことで、売却の見通しが立てやすくなります。
①滞納総額(元金+遅延損害金等)を確認する
まず、管理組合に問い合わせ、現在の滞納総額を正確に把握します。元金だけでなく、遅延損害金や督促費用、弁護士費用なども含めた「実際に清算すべき金額」を確認することが重要です。売却代金でこれを賄えるかどうかが、最初の判断基準になります。
②共有名義などの権利関係を確認する
次に、物件が共有名義(夫婦での共同所有など)の場合、滞納管理費は「性質上の不可分債務(分割できず、一人ひとりが全額の支払い義務を負う債務)」と解釈され、各共有者が全額の支払義務を負います。「持分が半分だから半額だけ払えばよい」は法的に通用しません。離婚協議中や別居中であっても、各自が全額の支払い義務を負う点は認識しておく必要があります。
③管理組合との交渉段階を確認する
さらに、管理組合の対応が、現状で「催告の段階」なのか、「訴訟を提起済み」なのか、「差し押さえ等の手続き中」なのかによって、状況の深刻さが変わります。訴訟が進んでいる場合は、弁護士等の専門家への相談も視野に入れましょう。
④住宅ローンの残債を確認する
住宅ローンが残っている場合、売却代金でローン残債と滞納額の両方を清算できるかどうかを確認します。売却代金が残債を下回る「オーバーローン」の状態になるときは、金融機関との別途交渉が必要になることもあります。
上記の確認を踏まえた上で、不動産会社に相談します。「管理費を滞納中」であることを最初から正直に伝えることが重要です。隠したまま仲介に出すと、後で発覚して取引が白紙になるリスクがあります。透明性を持って進めることが、最終的に最善の結果につながります。
管理費滞納マンションの売却に買取が向く理由とは?
仲介での売却が難しい管理費を滞納しているマンションにとって、業者が自らマンションを購入する不動産買取はひとつの有力な選択肢です。特に向いているメリットは、主に以下です。
①引き渡しまでのスピード(早期の現金化が可能)
まず、契約から決済までの時間の短縮(スピード)です。仲介では買い手が見つかるまで時間がかかることもありますが、買取では早期の売却が可能です。滞納が長引くほどリスクが高まる状況では、早期解決が大きなメリットになります。
②代金一括支払いによる確実性(業者との直接取引)
次に、取引の確実性です。買取業者が直接の買主になるため、代金の一括支払いにより解約リスク等が低く、確実に売却を完了させて滞納額を清算する流れを組みやすくなります。
③プライバシーの確保(一般向けの広告掲載が不要なケースが多い)
そして、プライバシーの確保です。広告を出さないため、近隣に売却活動が知られる心配が大幅に減ります。「近所に知られたくない」「できるだけ静かに解決したい」という方にとって、買取は精神的な負担も少ない選択肢です。
④現状のまま売却可能(リフォーム等の手間が不要)
加えて、現状のまま売却できる点です。建物の傷みが目につく中古住宅は一般消費者には売りづらい面がありますが、買取であれば売主側でリフォーム等の手間をかけることなく、確実に売却手続きを進めることができます。
⑤売却後の安心感(契約不適合責任を免責)
最後に、売却後の安心感です。買取業者が直接買い取る場合、契約不適合責任(契約内容との相違に対する売主責任)を免責できる可能性があります。売却後の紛争が発生するリスクを低くできる点は安心感につながります。
ただし、買取業者は自社の販売経費や利益、物件が売却できるまでの期間リスクなどを査定価額から差し引くため、売却価格は仲介売却と比べて低くなる傾向があります。価格よりも上記の確実性やスピードを優先する状況であれば、買取が最善の選択になることが多いでしょう。
まとめ
今回の記事では、管理費滞納中のマンション売却について、法律上の基本ルールから仲介売却の壁、放置リスク、時効の誤解、売却前の確認事項、そして買取という選択肢まで順に解説してきました。
まず、管理費を滞納していてもマンションの売却は法律上可能です。ただし、次の3点を理解しておく必要があります。
①滞納管理費は買主に引き継がれる(ただし、売主にも不真正連帯債務として全額の責任を負う)
②実務上は売却代金から一括清算するのが通例
③管理費滞納の消滅時効は5年だが注意が必要
そのため、仲介による売却では、3つの壁が立ちはだかります。
①買主が管理費の引き継ぎを敬遠する
②遅延損害金や弁護士費用の総額が積み上がり続ける
③仲介業者にとって滞納額の「重要事項説明義務」は重い
令和5年度のマンション総合調査(国土交通省)によると、3ヶ月以上の管理費等の滞納が存在するマンションの割合は全体で30.1%にのぼります。滞納は特殊な問題ではなく、多くのマンションで起きている現実です。
もしも「もう少し待てば…」と滞納を放置した場合、管理組合は段階的な法的措置に移ります。
①管理組合から支払督促・訴訟(区分所有法第57条以降)を申し立てられる
②預金等の金融資産・マンション(専有部分等)の差し押さえられる
③悪質と判断されれば競売(区分所有法第59条)に出される
「5年で時効になる」という誤解は根強いですが、管理組合は催告・訴訟等で時効を更新できるため、実務上の逃げ切りは極めて困難です。時効援用という手段も存在しますが、有効かどうかの判断は複雑であり、専門家への相談が不可欠です。
そこで、管理費滞納中のマンションを売却するには、次の4項目を確認しておきましょう。
①滞納総額(元金+遅延損害金等)を確認する
②共有名義などの権利関係を確認する
③管理組合との交渉段階を確認する
④住宅ローンの残債を確認する
特に、仲介での売却が難しい滞納マンションでは、不動産買取が有力な選択肢になります。
①引き渡しまでのスピード(早期の現金化が可能)
②代金一括支払いによる確実性(業者との直接取引)
③プライバシーの確保(一般向けの広告掲載が不要)
④現状のまま売却可能(リフォーム等の手間が不要)
⑤売却後の安心感(契約不適合責任を免責)
売却価格は仲介売却と比べて低くなる傾向があります。しかし、管理費の滞納は、放置するほど状況が悪化します。価格よりも優先するべき状況であれば、まずは現状を正確に把握し、早めに専門家や不動産会社へ相談することが重要です。
私たちエスエイアシストは、入居者がいる古いアパートや借地・底地、再建築不可物件など、扱いが難しい「お困り物件」のご相談を数多くサポートしてきました。
「どこに相談すればいいか分からない」「家族に迷惑をかけたくない」と感じている方こそ、ひとりで抱え込まず、まずは現状をお聞かせください。お客様の状況やご希望を踏まえ、無理のない出口プランを一緒に考えます。お困りの物件でお悩みの方は、ぜひエスエイアシストまでご相談ください。
【参考エビデンス・出典】
・最高裁判所(平成16年4月23日判決)
管理費債権の消滅時効が5年であることを確認した最高裁判例。
記事内「消滅時効は5年」の法的根拠。
URL:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52360.pdf
・国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」
第60条第2項に、管理費滞納者への遅延損害金・弁護士費用等の
請求根拠が定められていることを確認。
URL:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001999013.pdf
・国土交通省「令和5年度マンション総合調査データ編」
3ヶ月以上の管理費等滞納があるマンションの割合
(全体30.1%・昭和49年以前48.4%・昭和50〜54年完成40.7%)。p.199参照。
URL:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001750163.pdf



